る場合,児童にとっては前時と同じ内容を繰り返し経験することになる。そうであれば,その時間をリハーサルの場面に充て,スキルの使用機会を増やした方が効果的なのではないか。また,同じ内容の繰り返しにならないように教示やモデリングの方法を変更した方が良いのではないか,その場合の方法とはどのようなものなのであろうか。 今回,指導案様式の在りようも含め,5つの技法を全てのSSTに組み込むことを通して,一定の成果が表れた。しかし,このSSTをより効果的なものとするために,同じスモールステップに関わるSSTを連続して指導する際のSSTの構成方法については今後の研究の中で継続して検証していく必要があると考えられる。 (2)複数のスキルの同時指導 指導前後の評価の比較を行った際,その変化の仕方に極めて興味深い特徴が見られた。ここではその特徴と,考えられる要因について述べる。 表4-4は,h児の三者による指導前後の項目ごとの評価を一覧にしたものである。h児の困りのある領域である,仲間関係スキルとコミュニケーションスキルの2つのソーシャルスキル領域について示している。h児に対して一連のSSTで指導した内容は図内の網かけ部分であり,上向き矢印は指導の前後を比較したときに点数が増加した項目である。 表4-4 h児の三者による評価の項目ごとの変化 h児に対するSSTのターゲットスキルは「仲間と会話を続けることができる」というものであり,このスキルの獲得のために,「相手に質問する」「相手に呼びかけてから話す」「順序立てて説明する」小学校 総合育成支援教育 27 の3つのスモールステップを設定して順に指導を行った。これらターゲットスキルとその下位項目であるスモールステップは図内の(27)(36)(38)と関連しており,指導後に評価の点数の増加を期待するところである。 結果としてはターゲットスキルであった(27)では児童,スモールステップの(36)でLD等通級指導教室担当者,(38)で三者の点数が増加し,指導の効果を示すものとなった。ところが,図内に示した通り,これら指導内容と関連する項目だけでなく,他の多くの項目の点数も増加した。ターゲットスキルとスモールステップに関わるものを除いて,点数増加の見られた項目は担任で4,LD等通級指導教室担当者で11,児童で4となっている。このような,指導に組み込んでいないソーシャルスキル項目の点数増加が,提示したh児だけでなく,研究の対象とした児童全員に見られた。また,ターゲットスキルの設定時に,困りのある領域として設定していないソーシャルスキル領域の評価でも,指導者による評価で全児童に同様の変化が見られた。 指導の中で指導者が意図していない項目の数値が増加する要因を探るために,結果を詳細に分析した。その結果,SST時に1つのSSTに含まれる複数のソーシャルスキルの存在が明らかとなった。今回は特定のスキル育成のためにSSTの内容を編成してきたが,その1つひとつのSSTの中に他のスキル育成の要素が含まれ,それが作用したと考えられるのである。 表4-5は4人組集団指導で3回にわたって指導を行ったSST「伝言ピクチャー」において育成可能なスキルを表にまとめたものである。 表4-5 育成可能と思われるスキル
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