指導前のチェックの際,この児童の自己評価は「人前で適切に発表やスピーチをできる」「くやしさや怒りを言葉で伝えることができる」という2つの項目において指導者2名の評価との間に乖離が見られた。どちらの項目も指導者2名は「できている」,児童は「できていない」という評価である。そこで,この2つの項目に関わるスモールステップはSSTに組み込まずに,自己認知に関わる指導を設定しその効果を検証した。 この指導では,動物エゴグラム(26)を用いた。これは交流分析に基づき作成された性格診断テストをインターネット上で行うことのできるものである。ブラウザ上に表示される質問に答えることで学校,家庭,社会といった場面ごとに自身の特徴的な長所短所を示すことができる。また,診断結果を表示する場面では,自身を複数の動物に例え,それぞれの良さや改善すべき点などが表示され児童が理解しやすいものになっているため,自己認知の補完につながると考えた。 ここで示された情報を基に,自分には長所も短所もある,家では自分に正直に過ごしているが学校ではちょっと我慢してしまっている,自分に厳しいなど,児童が自身の認知に関わる枠組を客観視できるようにした。実際の指導の中では,提示された結果に対して,児童自身が「当たってる」「そうだったんだ…」とこれまでの自己に関わる評価を肯定したり,修正したりする様子が見られた。 この自己認知に関わる指導を全体の計画に組み込んで行った指導後のチェックでは,児童の自己評価の数値が上昇し,指導者と児童間の評価の乖離は消滅した。このことから,今回のような自己認知に関わる指導を行うことで児童自身の認知評価がより的確なものになることが示唆された。 第2節 より効果的なSSTを行うために (1)5つの技法と指導案様式の工夫 LD等通級指導教室における指導が,児童の実態に合わせて45分の授業時間をいくつかの時間枠に分割し,それぞれの時間枠の中に複数の目標を設定されていることについて第3章第2節で述べた。ここでは,そこで行った指導上の工夫と,指導案様式のあり方について,成果と課題を含めて述べる。 第1章第2節で述べた5つの指導技法は,どれもがSSTを実施する上で不可欠なものである。しかし,学校で行うSSTに関わる先行研究や市販されている小学校 総合育成支援教育 26 書籍のSST指導案を見ると,活動の核となるリハーサル部分のみを示したものや,教示・モデリング部分のみをワークシートとして示すもの,「導入―展開―まとめ」「わかる―やってみる―振り返る」といった場面分けをしているだけで,具体的な技法について触れられていないものが複数見られた。この様式では,教員やLD等通級指導教室担当者が使用する際,指導案作成者の意図が正しく伝わらなかったり, 指導技法の順序が交錯したり欠落によってその効果を得ないまま指導が終了してしまったりすることが予想された。そこで,集団指導においても個別指導においても全ての指導に教示,モデリング,リハーサル,フィードバック,般化の5つの指導技法を組み込み,指導案に明記した。 表4-3は,実際に使用した指導案である。 表4-3 リフレーミングに関わるSST指導案 これは,先述のリフレーミングに関わる指導案の1つである。指導場面を5つ技法の名前とし,指導者がどの場面を使用しているのかを把握しやすくするとともに,技法使用の漏れをなくすことを意図した。それぞれの場面での活動内容と留意点を示し,その中で指導者の動きを示している。 この指導案の様式については,事後の聞き取りの中で,「フィードバックについて指導案上に明記されているため,リハーサル時の児童の観察をより具体的に行うことができた」,「これまではフィードバックの場面で指導が終わっていたが,般化の項目があることで,必ず児童にスキル使用を促すことができるようになった」というような言葉がLD等通級指導教室担当者から聞かれた。 一方で,前時に指導したスキルを継続して指導する第2時以降の指導の際,教示・モデリングの場面の必要性を見いだせないことがあった。これは特に計画的に指導ができ,児童自身のスキル使用への意欲も高い時に感じられた。すでに前時でスキルについての意義説明やモデリングができてい
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