図4-3 a児の乖離した評価の変化 加しており,SSTでの成果を確認することができる。また,c児自身は,自己評価を比較するためにSST前後の2枚のシートを並べて提示した際,「わぁ,増えている。」と自分の成長に驚きつつ満足げにつぶやく様子が見られた。このことから,c児自身は今回の自己評価によって達成感を感じることはできたと考えられる。さらに,次回以降のSSTでがんばりたいこととしては,点数が2ポイント減少した項目2つを含め3つのスキルを選択していた。今後のSSTにおいて,点数が減少した項目について自己評価で「0:当てはまらない」とした理由も探りつつ,児童の力の育成につながるSSTを設定していくことが必要となる。 今回の自己評価では多くの児童が達成感を味わうと共に,今後の自分の目標や学習に見通しをもつことができた。しかし,児童の意欲を持続させるという点では,もう少し短い期間でこのソーシャルスキルチェックを実施し,自分の成長を細かく見とることができるようにした方が良いようにも考えられた。 また,前述したミッションカードを用いた取組では児童が主体的にSSTに向かう姿が見られ,その効果が表れたが,このミッションカードがソーシャルスキルチェック表とどのように関わり,どのターゲットスキル獲得のために学んでいるのかを児童自身が把握できるようにする工夫も必要であると考えられた。 (3)2つのチェックを比較して ここまで指導者及び児童によるチェックの内容について述べてきたが,この項では両者を比較し,そこから見えてきたことについて述べる。 ターゲットスキルを設定する際,学級担任,LD等通級指導教室担当者,児童の三者のそれぞれの評価を比較したことについてはこれまでに述べたが,その中で,一部の項目や領域で指導者2名と児童の評価に乖離が見られることがあった。例えば「集団に向かって自分の意見を述べる」という項目に対して,指導者2名はともに「0:当てはまらない」を選択しスキル不足であることを指摘しているが,児童は「2:やや当てはまる」を選択しその項目に困りを感じていないような状況である。また,逆に指導者2名が当てはまるとチェックしていることに対して,児童は当てはまらないとチェックするような状況も見られた。これらの現象は,全ての児童に見られたわけではなく,それぞれ特定の児童の複数項目にわたって見られた。 小学校 総合育成支援教育 25 対象児童の全ての項目で同様の現象が見られた場合は指導者の児童に対するチェックや児童の自己評価が甘い・厳しいということで評価の乖離をある程度説明できるが,今回のように特定の児童のいくつかの項目に限って他の児童にはない差異が出現したことについては,要因を考察してみる必要があると考えられる。 結果が乖離する理由として,指導者側の見とりの間違い,もしくは児童自身の自己評価の間違いがあると考えられるが,今回は指導者の二者はともに同様の評価をしていることから,児童の自己認知する力が十分に育っていないことが考えられた。 育っていないということは,その児童だけが力を身に付けていないように思える。しかし,同年代の児童の発達段階では,ほぼ周囲からの関わりによって子ども自身の認知が形成されるのではないだろうか。子どもたちは周囲の大人や友人から何らかの言動を受け取る際,それが自分にとって好意的なものか,そうでないかということを判断し,“自分”というイメージを書き換えていく。その中で本人の実態以上に褒められたり叱責されたりすることで「私はできる子」とか「私はダメな子」といった誤った認知を行ってしまうのである。これまでに起こった出来事や人とのやり取り全てがその子の今の自己イメージを形成するとすれば,今回のように自己評価したときに周囲の評価との乖離があってもおかしいことではない。 このような周囲とは違う児童の自己評価を補完するために,評価に乖離があった児童のうち1名に対して自己認知に関わるSSTを実施し,その効果を検証することとした。 図4-3は指導者と児童の評価に乖離の見られたa児のスキル項目の,指導前と指導後の素点の変化を示したものである。
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