じた教科の補充指導に充てられるというのが通説である。ここではそれを踏まえてそれぞれでのリハーサルにおける成果と課題について述べる。SSTの5つの技法を「知る」「つかう」「わかる」の3つのスキル獲得の段階に当てはめた時,教示・モデリングは「知る」,リハーサルは「つかう」,フィードバック・般化は「わかる」となる。(図3-7) 「つかう」場面でいかに指導するかでスキルに対する児童の理解や使用への意欲が大きく左右される。そこで,その他の技法も漏らさず使用することは必須であるが,そのうえで,リハーサルをSSTの中で最も重要な部分としてとらえた。 集団指導におけるリハーサルは,集団の中でスキル使用ができ,相互にフィードバックできることが利点であり,それが最も特徴的なことであるといえる。これにより極めて現実に近い形でスキル使用の効果を体験することができ,その後の日常生活でのスキル使用にも移行しやすい。これは教師―児童間でのやり取りによって成立していた学習の形が,時間を経ることで児童―児童でのやり取りを指導者がコーディネートするという学習の形に変化していったことや,児童がお互いに相手へのフィードバックを行うようになったことから明らかとなった。また,集団に属する児童同士の関係性が作られていくと,やり取りを繰り返す中でお互いの自己理解が促されることも利点として挙げられる。これは,お互いにフィードバックする中で,それぞれの児童がやり方や考え方を修正し自己理解を深めていく様子から見て取ることができた。 その半面,指導者側の視点で見ると,常に複数の児童のスキルの目標やその進捗を把握しなければならず,特定の児童に変容が見られ他のスキル使用が必要となっても,即時の指導内容変更が難しいことが弱点である。これは今回の実践のように1つのSSTでそれぞれの児童のスモールステップを包括し,育成を目指す場合,顕著にあらわれる特徴であろう。また,個別指導によるSSTと比較すると,一人一人の児童がスキルを使用する回数が少なくなってしまうという弱点もある。それぞれのねらいとするスキルの使用機会を保障するために活動内容の工夫や指導時間の拡充が必要となる。 対して,個別指導におけるリハーサルでは,指導者と児童の信頼関係を築きやすく,児童が安心し,落ち着いた状況で学習に向かうことができることや,児童の様子に合わせて容易に指導や支援の内容の組み替えをできることが明らかとなった。小学校 総合育成支援教育 19 また,リハーサルで行われる活動では基本的に失敗することがなく,成功体験を重ねることができることも利点として挙げられる。しかし,スキルの般化に向けた効果という点に限って言えば,個別指導のシミュレーション学習によるリハーサルの効果は集団指導のそれには及ばない。具体的な場面設定やそこでのスキル使用を行うことができず,指導者以外の相手からのフィードバックも期待できないからである。 以上のことから,SSTにおいて最も重要と思われるリハーサルについての集団指導と個別指導によるSSTの比較から総合的に判断して,やはり集団指導の方がより効果的にSSTを行うことができるという通説の妥当性が認められる。 そこで,この個別指導におけるリハーサルの弱点を補完するために,ロールプレイによるリハーサルを取り入れた。ロールプレイを行うことで,より現実に近い形でスキルを使用できるだけでなく,その時の相手の様子に合わせてスキルを応用したり,スキル使用したけれども失敗する経験をしたりすることができるからである。 実際にロールプレイを指導に取り入れる際,児童が役割演技をすることに抵抗があることが予想されたので,のびのびと楽しく参加できる形をめざし,困っている友達にアドバイスをするというテーマでロールプレイの指導をした。 ここではプロンプトやシェーピングを用いて児童のロールプレイをサポートしつつ,指導場面とロールプレイ中の場面を完全に区別するために,児童自身が合図することで2つの場面を切り替えるようにした。 これにより,役割演技することへの抵抗感は薄まり,少しずつではあるが,実際に動きや表情を加えて演じることができるようになった。指導者と2人で行う個別指導であっても,その役割を入れ替えたり,場面を変えたりすることで指導の可能性を広げるものになりうると感じられた。また,ロールプレイは,必要ではあるが使用頻度の低い「怒りを言葉で伝える」「友だちが失敗したときに励ます」などのスキル場面も容易に設定できるため,個別指導における使用だけでなく,集団指導SSTにおいてもその効果は高いものになると考えられた。 今後,個別指導SSTで不足しがちな現実場面でのスキル使用を担保すると共に,集団指導においても,より効果的なSSTを行うために,LD等通級指導教室でのロールプレイを用いた指導をさらに
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