らは,運動会がある,日直をする,宿題が出るといった学校での出来事は児童生徒にとって心身の健康状態に深く関わるストレッサーであり,特に経験頻度の高い出来事ほど学校生活への不適応につながりやすい(22)ことを明らかにした。この考えに基づくと,身の回りの様々な事柄がストレッサーとなりうるが,その1つ1つが全てストレス反応につながるものではない。例えば,認知的評価の段階で,日直をするという事柄を,自分にとって取るに足らない出来事であると評価した場合,その時点でストレス反応の原因とはならなくなるし,日直はいやだと評価した場合でも,今までの経験を振り返って頭の中でシミュレーションしたり,日直の仕事内容を書き出したメモを作ったりして対処すること(コーピング)で,ストレス反応が発生しなくなるという場合である。 多くの場合,児童生徒は無意識にこのような経験を繰り返し,日々身の回りで発生するストレッサーに対する対処法を身に付けていくが,その習得の速度や,複数の対処法をもち,それを使い分けるといった柔軟性には個人差がある。 コップに入った水を見たとき,「あとこれだけしか残っていない」と考える人と「まだこれだけ残っている」と考える人がいる。また,残り少ないと感じる水を前にして,誰かに頼んで追加してもらおうとしたが断られ,その他の対処行動を見出せずストレス反応を起こす人もいれば,他の飲み物を探しにいく,少しずつ何回かに分けて飲む,といった複数の対処行動を試し,ストレス反応を起こさない人もいる。これと同じように,同様のストレッサーであっても悲観的にとらえてしまう児童生徒もいれば,気にも留めない児童生徒もいるし,単一の対処行動にとらわれてそれにこだわる児童生徒もいれば,複数の対処行動を場面に応じて使い分ける児童生徒もいるのである。 菅野(23)は,このような個人差を引き起こすものとして2つの原因を挙げている。1つは「これまでの生育過程で身近な人の〈よさ〉をあまり体験できず,現在も,周囲から自分の存在を認めてもらっている,守られている,(中略)といった実感の乏しい生活を送っている可能性」があるなどの心理・環境的要因,もう1つはLD等支援を必要とする児童生徒に多くみられる,発達の未熟さと偏りが中核にある発達・障害的要因である。 図2-13は発達障害のある小学校第4学年から第6学年の児童に対して学校ストレッサーとストレス反応の調査を行い,同年代の定型発達児と比小学校 総合育成支援教育 14 (15)竹田契一・花熊曉・熊谷恵子 『特別支援教育の理論と実践Ⅱ指導』 2012 金剛出版 p.147 (16)LD等通級指導教室の「運営」&「活用」ガイド (17)読字・書字のつまずき把握と指導・評価実践事例集 (18)LD等支援の必要な生徒への指導・支援ガイド http://web.edu.city.kyoto.jp/sogoikusei/27shidoushiengaido/ shidoushiengaido 2018.2.20 (19)樋口 耕一 『社会調査のための計量テキスト分析』 ナカニシヤ出版 2014 ソフトウェア:KH Coder (20)上野一彦・岡田智 『特別支援教育 実践ソーシャルスキル マニュアル』 明治図書 2006 (21)Lazurus,R.S.,&Folkman,S. 『Stress,appraisal,and coping. Newyork』Springer.1984 (22)戸ヶ崎泰子・嶋田洋徳・秋山香澄・坂野雄二 「学校ストレスと登校意識の関連(1)」『 日本行動療法学会第20回大会発表論文集』 1994 (23)菅野 純 「学校にストレスを感じる子ども」 『児童心理10月』 2014 P4-7 (24)戸ヶ崎 泰子 「発達障害のある児童の学校ストレスと社会的スキルの特徴」 『日本認知・行動療法学会第40回大会発表論文集』 2014 較したものである。 これらのことより,戸ヶ崎は,「発達障害児が強いストレス反応を表出しているのは,ストレス軽減要因の1つであるソーシャルスキルが未熟であるためである」(24)と述べている。 このことから, LD等支援を必要とする児童生徒にとって,ストレッサーへの認知的評価やコーピングがその他児童生徒よりも困難であると考え,LD等通級指導教室において認知的評価の段階でのストレッサー解消とコーピングの段階でのストレス反応の軽減をねらいとし,ストレスに焦点を絞ったSSTも行う。日常場面での不適応の要因に対処するだけでなく,学んだソーシャルスキルを用いたけれどもうまくいかなかった場合に,他の方法を試してみたり,気持ちを切り替えたりすることができるようになれば,学んだソーシャルスキルの般化も円滑になるのではないかと考えている。 https://portal.kyotocity.ed.jp/taxonomy/term/1374 2018.2.20 https://portal.kyotocity.ed.jp/node/1210 2018.2.20 図2-13 発達障害児の学校ストレスの特徴 各学校ストレッサーの値については発達障害群と定型発達群との間に大きな差異はないが,ストレス反応については発達障害群のほうが定型発達群に比べて非常に強いストレス反応を表出していることが分かる。
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