抱えている領域に焦点を当て,そのスキルの使用頻度や難易度,得意な領域との関連の有無などを多角的に検証し,児童本人の自己評価を加味して決定する。 実際の指導では,SSTの内容が設定したターゲットスキルの習得という目的から外れることのないようにし,般化を見越して学級や家庭と連携しながら指導を行う。日常場面でのスキル使用の際に想定されるストレスに関わる指導も同時に行い,一定の期間をおいて,対象児童生徒が学んだスキルを使用することができるようになったか,また,時間が経ってもそのスキルを維持することができているかについてSST実施前と同じ尺度で効果測定を行う。その結果,効果が認められる場合は次に身に付けさせたいスキルをターゲットスキルに設定し,新たにSSTを行う。以降そのサイクルを繰り返し対象児童生徒の困りの克服を目指す。 学んだスキルが般化されていない場合や,維持されない場合はターゲットスキルの選定や実際の指導に不備がないかを確認し,ターゲットスキルを変更したり,必要に応じてフォローアップの指導を行ったりする。 (2)児童の実態把握と変容の見とり ソーシャルスキルは文化圏や対象となる集団によって変化したり,状況に合わせて求められる応答が変化したりする多様性をもっている。このため我が国において必要であるソーシャルスキルや学校において必要となるソーシャルスキルの具体的な内容を全て書き出すことは不可能である。そのため多くの場合,いくつかの代表的なソーシャルスキルを領域ごとに整理し,その領域の中で系統立てて複数回の指導が行われることが多い。例えば初めにあいさつに関わるスキル,その次に自己紹介をするためのスキル,そして気持ちを伝えるためのスキルといった形である。しかし,この方法をそのままLD等通級指導教室におけるSSTに適用すると,指導にかかる時間が増大し,障害の状態に応じた教科の補充やその他自立活動に充てる時間が減るのと同時に指導の目標が曖昧になり,児童生徒のソーシャルスキル向上にも時間がかかることになると考える。 図2-8は前出の調査における「LD等通級指導教室においてSSTを実施する上で大切なことは何ですか」に対する回答である。優先度順に選択された回答に,順位に合わせて14~2点までの配点を行い集計している。 小学校 総合育成支援教育 11 ここでは有効回答56件のうち51件において児童の実態把握が最上位となっており,次いでターゲットスキルの選定,学級担任との連携と続く。そこで,児童の実態把握を基に,本人の不適応の原因となるものや現在の発達段階で身に付けておくべきものなどの中から,必要度の高いものをターゲットスキルとして選定し,そこに的を絞ったSSTを計画することとした。 また,指導後の児童の評価,指導時間の設定についてはその他項目と比較する中で優先度の低いものとなっている。しかし指導後の児童の評価は指導効果を測定する上で重要であるし,指導時間の設定についても,在籍学級や家庭との連携を充実させ,今後通級指導の中で集団でのSSTを設定していく場合には重要となるであろう。 児童生徒の実態把握を行う方法としては,保護者や教師が行う他者評価や,対象児童生徒が自分で行う自己評価,応用行動分析を用いた行動観察などがあるが,本研究では他者評価及び自己評価によって行う。尺度化されたチェックリストである「指導のためのソーシャルスキル尺度(小学生用)」(岡田 上野)(20)を用い,同学年同性集団と比較することで対象児童生徒のソーシャルスキルがどの程度育っているかを把握するのとともに,具体的にどのようなスキルが習得できていて,どのようなスキルが困りの原因となっているのかを明らかにする。 このチェックリストは集団行動,仲間関係,コミュニケーション,セルフコントロールの4つの領域に分かれた全56項目の質問に,「0:当てはまらない」「1:あまり当てはまらない」「2:やや当てはまる」「3:当てはまる」の4件法により回答し,そこから得られた素点の合計を基に評価点を算出する。学年及び性別によって素点から得られる評価点を調節し,それぞれ集団の平均点を10とすることで,同学年同性集団の中での対象児童のソーシャルスキルの力を測ることができる。 図2-8 SSTを実施する上で大切なこと (点)
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