SSTを行う際に使用する教材についての調査の結果である。 設問に沿って問題となる生活場面を想起し,その解決法について考えることのできるワークシート型教材や,記されたイラストを基に登場人物の言動の良し悪しに気付くことのできるカード型教材,すごろくなどのゲームを楽しみながら問題解決方法を学ぶことのできるゲーム型教材など,シミュレーション学習のための教材が多く使われていることが分かる。いずれの教材も入手しやすく,ソーシャルスキルの活用に関わる場面や課題を含んでパ付けジ化されているため多様な困りを抱える児童が通うLD等通級指導教室でのSSTにとって有用であると考えられる。 実際に,需要の高まりに合わせ,様々な関連書籍や教材を身近なところで目にするようになり,本市でのSSTに関わる研修会などへの参加者も大変多い。しかし,そこで語られる指導や紹介される教材が,そのまま個々の学級や児童生徒に適用できるとは言いがたいと考える。これは,児童生徒の実態が必ずしも一様ではないことに起因する。そして,もう1つの課題として,シミュレーション学習での体験は基本的に疑似体験であるため,指導場面だけでは実際にスキルを身に付けるところまで至らないという点が挙げられる。対象児童生徒が所属する集団である,学級や家庭との連携が確立されていないと好ましい指導効果が得られないのである。 つまり,シミュレーション学習を行うだけではソーシャルスキルを般化することはできず,指導したソーシャルスキルを般化させるには,対象児童生徒の属す様々な生活環境を,実際にスキルを使ってみる場として整える必要があるのである。 さて,本市LD等通級指導教室でのSST指導は,個小学校 総合育成支援教育 8 別指導で行われることが多く,SST実施の際用いられるのはシミュレーション学習である。 図2-2は集団指導SSTと個別指導SSTについてまとめたものである。 実際にSSTの中で行われる指導の技法や要素については前項で述べたが,対象児童生徒がスキルを獲得するには図のような「知る」「つかう」「わかる」の3段階を経る必要がある。この流れに沿いながら,児童の実態や指導場面の状況に合わせ,5つの指導技法やその他の要素を付加することで日常生活への般化を目指すのである。 しかし,本市のLD等通級指導教室での指導に限って言えば,個別指導であるという制約により「知る」段階で終了する指導が多く,SSTが本来目指すソーシャルスキルの般化に関わるそれ以降の指導は,LD等通級指導教室以外の場所で行われる場合が多い。 そうなると,仮に学級や家庭でのサポートが得られなければ,「つかう」「わかる」段階に至ることができず,指導したスキルが般化に向かわない。これでは児童生徒の困りの軽減や解消につながりにくい。これを踏まえ,「個別指導」で行うSSTのあり方を,学級,家庭との連携のあり方の模索も含め,指導実践を基に考察していく。 (3)本市LD等通級指導教室の実態 本市では平成29年4月現在,小学校61校(ことばときこえの教室併用12校),中学校17校で児童生徒への通級指導を行っている。設置率は市内の全小中学校の約32.9%にあたり,平成28年時点の全国の公立小中学校の平均が15.2%であることを考えると,比較的高い水準で設置が進んでいるといえる。 これまでに本市では,LD等通級指導教室の運営に関わる『LD等通級指導教室の「運営」&「活用」図2-1 SST指導の際,使用する教材 図2-2 集団指導SSTと個別指導SST
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