学年児童は,「思考と活動が未分化な時期」(16)にあると言われ,「動くことと考えることが同時に進む」(17)ことが特徴の一つである。この発達段階を踏まえたうえで,運動に進んで取り組み,きまりを守り仲よく運動をしたり,勝敗を受け入れたり,場の安全に気を付けたりすることができるようにする態度を育てていく。また,簡単なルールを工夫したり,攻め方を決めたりできるように支援していくことが求められる。 京都市スタンダードでは,発達段階を踏まえた単元構成となっていることが確認できたが,筆者は,小学校の体育学習指導には,発達段階を踏まえた指導について課題があるのではないかと感じている。 先日,ある京都市立幼稚園の保育を参観した。そこでは,全ての子どもたちが,自ら進んで遊んでいた。場の工夫は自分たちで行い,遊びたい形に工夫していた。まわる,とぶ,くぐる,はねる,しゃがむ,立つ,這うなど身に付けさせたい多様な動きは,保育者が何も言わなくても出てきていた。子どもは,遊びの世界に没頭し,その世界でのルールに自然に従うようになる。 巧技台という簡易な遊具で遊んでいる中で,子どもたちは,先頭にいる子の後ろについて,その子がした動きを真似するようになってきた。先頭の子は自然にリーダーとしての役目を果たすようになる。後ろに並んでいる子の様子を確かめながら,ゆっくり進んで行ったり,「次は○○ね」と声を掛けたりしている。また,後ろに並んでいる子は,「○○ちゃんのまねすんねんで」と遊びに参加してきた子に声を掛けている。このルールは事前に決められていたものではなく,遊びながら自然発生的に生まれたものである。途中で理由もなく先頭の子が変わったり,列がバラバラになったりする。ルールは厳格なものでなく,常に流動的であった。真似をするということはカイヨワの遊び分類の一つに挙げられている。子どもの本能的なものなのだと感じる瞬間であった。また,子どもたちの活動中の声からも,自ら遊び,楽しんでいる様子がうかがえた。「やった」「できた」という達成感を表す声や,「これできる?」と友だちに挑戦をあおる声が飛び交っていた。鉄棒をしている子からは,「これでやろか」「先生みといて」という声が聞こえてきた。今ある自分の力で,技のような遊びを保育者に披露している。保育者から,「この技をしてみよう」という提案はない。子どもたちの今ある力を大切に,自分が挑戦したい課小学校 体育科教育 7 題に向かって遊ぶ子どもの姿を尊重しておられた。このような学びは,「しみ込み型」の学びであり,遊び=学びという学習観であるといえた。 一方,筆者は,小学校現場では,「体育の学習は技能を身に付けさせればよい」という学習観で授業を行っている教師が多いのではないかと感じている。以前参観した低学年の跳び箱の授業では,「開脚とびができるようになること」が指導者や学習者の大きな関心となり,指導者は学習者が開脚とび○段をできるようにするため,必死になっていた。体育館には,「ここに手をついて」「もっと強く踏み切って」「まだまだいける」などの指導者の大きな声が響き渡っていた。「次はこれ,次はこれ」とスモールステップが組まれ,学習者はその指示に従っていく。自然と指導者と学習者の役割がはっきりと分担されるようになる。指導者は,自分のもっている知識や技能を学習者に伝えながら,指導しなければならないと考えている開脚とび○段を,全員がクリアできるように躍起になっていた。学習者は,開脚とびが成功すれば喜び,失敗すれば悔しがり,闇雲に挑戦している。学習者は,指導者が伝えたことを正確に行い,できなければ指導者を頼り,できたという成果を指導者から得ようとしているようであった。言い換えると,指導者の敷いたレールの上を歩き,効率よく学習を進めていた。 小学校では,「体育の授業」という枠組みの中で,指導すべき内容が明確にされている。身に付けさせたいことがある以上,指導者からの「教え」も発生し,それが時として,子どもたちの本当に楽しみたいことを奪ってしまうときがある。指導者の思いが強すぎて,「させる」授業となることもある。また,評価というものに縛られてしまう感覚も捨てきれない。子どもたちが自由に遊び,子どもたちのやりたい運動をさせて,そこで楽しんでいる姿を即時に評価するだけではない。通知表というものがあり,最終的には,子どもたちの姿から「321」という評価を下さなければならない。したがって「ただ遊ばせているだけでは学びではない」ということになってしまう。「学校で子どもたちに学習をさせる以上,子どもたちの学習をしっかり評価しなければならない」ということが,小学校現場では現実にある。だから遊んでばかりはいられないというわけである。 このような学習観は,「教え込み型」であり,目に見えるものを「できる」「できない」で評価し,高度な技能を早く身に付けることができれば,こ11
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