遊びとしてスポーツやダンスをとらえる際には,それらがもつ特有の楽しさ,面白さを明らかにする必要があると考えられる。 (2)運動がもつ固有の楽しさ スポーツやダンスを遊びとしてとらえ,体育学習として成立させるとき,それぞれの運動が,どのような特性(楽しさ,面白さ)をもっているのかを明らかにすることが必要である。その特性を十分に味わうことができれば,運動は遊びとなり,「楽しい」「面白い」ものとなる。指導者が機能的特性(運動のもつ楽しさ)を理解することで,子どもたちにその運動をどのように受け止めさせ,どこに楽しさを感じるかなど,運動との関係を気付かせることができる。図1-2は,運動がもつ楽しさ(機能的特性)から見た運動の分類である。 図1-2 機能的特性から見た運動特性分類 まず,欲求充足の運動と必要充足の運動に分けられる。欲求充足の運動とは,運動に参加する者の挑戦や模倣・変身の欲求を充足するという機能をもつ運動である。挑戦欲求を充足するものをスポーツと呼び,変身欲求を充足するものをダンスと呼ぶ。カイヨワの遊びの分類では,スポーツはアゴン,ダンスはミミクリーとなる。挑戦欲求は,主に,競争型,達成型,克服型に分類される。競争型の運動とは,「他者へ挑戦し,勝敗を競い合うことが楽しい運動」(8)である。競争型の運動には,個人対個人のスポーツや個人対個人のスポーツがあり,代表的なものとして,サッカー,バスケットボール,テニスなどである。達成型の運動とは,「記録やフォームなどの観念的基準へ挑戦し,それを達成することが楽しい運動」(9)であり,代表的なものとして,50m走,走り高跳びな 小学校 体育科教育 3 どである。克服型の運動とは,「自然や人工的に作られた物的障害へ挑戦し,それを克服することが楽しい運動」(10)であり,代表的なものとして,跳び箱運動,マット運動,鉄棒運動などである。一方,変身欲求は,リズム性を重視するか,イメージを重視するか,動きの型が定まっているか,定まっていないかといった要素から,リズム型,創作型,民舞型,社交型に分類されている。 欲求充足の運動が楽しさや面白さを求めて行われるのに対し,体の必要性を理解し,その必要を充足するために行われるのが必要充足の運動である。佐伯は,必要充足の運動を,「体の働きを高めたり,維持したりするなど体の必要を充足するために工夫され,行われる運動」(11)とし,楽しさよりも正しさを求めて行われるものであると述べている。健康の維持,増進のために行われるジョギングやウォーキングなどがこれに含まれ,遊びではなく体操というカテゴリーに分類される。 これまで述べてきた運動の機能的特性は,あくまでも一般的な特性(一般的な楽しさ)である。筆者は,この一般的な特性は,体育学習を進める中で,固定的なものではなく流動的なものであると考えている。なぜなら,体育学習では,目の前の子どもたちの実態と運動との関係が重要であり,体育学習の中で指導者が,「この運動は,この特性だから…」と特性分類を絶対視し,固定化してしまってはならないからである。それぞれの運動の一般的な楽しさが,運動を行う者が感じる楽しさと一致しないことも多い。 高橋は,水泳の例を挙げて,「学習者の技能向上にともなって,運動の楽しみ方も変化していく」(12)としている。水泳の最初の段階は,水という環境を克服することに挑戦課題が向けられ,水をかぶったり,水中で目を開けたり,水中を歩いたりすることが楽しい段階である。このような段階から,子どもたちは,水の中で浮かんだり,進んだり,泳法の習得をしたりすることに関心を向けるようになる。更に進んだ段階では,泳ぐことができる距離に関心が向けられ,フォームの洗練にも力を入れるようになるかもしれない。そして,余裕をもって泳ぐことができるようになると,より速いタイムを達成しようとしたり,相手と順位を競ったりすることを楽しむこともあるだろう。このようなことは水泳に限ったことではなく,他の運動でもいえることである。このように,子どもの技能の段階によって,運動の楽しみ方は常に変化し,発展していくものである。大切なのは,7
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