001総教C030705H28最終稿(西田)
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32 T :(まず今ある力で前転がりをさせてみてから)みんなちょっと集まって。みんなが遊んでいる様子を見てたんだけど,とても上手(この言葉は指導者によって変える)に回っていた人を見つけたから紹介するね。○○さん,ちょっとやってみて。まず,みんなは,○○さんの頭のどのへんに地面がついているかを見といて。(○○さんによる示範)どうだった? S :頭の後ろの方!…首の近く! T :そうだね。じゃあ先生もやってみるね。(わざと頭のてっぺんを地面に付けて示範) S :先生,頭のてっぺんについてる! T :そうだね。じゃあ,もう一回やってもらうね。次は,○○さんの足を見といて。足のどこが地面についているかを後で聞くよ。(○○さん示範)どうだった? S :足の裏! T :そうだね。じゃあ先生もやってみるね。(わざと頭のてっぺんを地面に付け,足を延ばして着地するように示範)どっちが上手に見えた? S :○○さん!先生のはどんどんうるさい! T :じゃあもう少し時間あげるから遊んでおいで! 図4-6 児童と指導者との関係 教え込み型としみ込み型を極端に表現し,比較してみた。教え込み型では,指導者が一方的に前転がりのポイントを一気に説明するので,説明に要する時間は短い。一方,しみ込み型では,ポイントを一つずつ丁寧に児童と確認している。また,児童の姿と先生の姿を比較することを通して,指導したいことが明確になるようにしている。説明する時間は長いが,児童の中には,「そういうことか」と知識として情報がしみ込み,それが「やってみたい」という意欲につながっていくと考えている。聞くだけの情報よりも,視覚からの情報に優位性があるということである。 教え込み型もしみ込み型も,ねらいを明確にするということについては同じだといえる。しかし,ねらいを明確すれば,ねらいを正しく正確に指導しなければならないという思いが先行してしまうことが多い。図4-6は,児童と指導者との関係をまとめたものである。 小学校 体育科教育 28 ①は指導者の思いが強く,指導しなければならないことが先行している状況である。この状況は,児童の実態や能力が考慮されておらず,教え込み型となる可能性がある。「○年生だからこれをさせなければならない」「私は○を絶対させたい」という指導者の思いが強すぎるのである。児童は,指導者の先導により,ただ黙々と与えられた課題をこなすこととなる。それを楽しいと感じる児童もいるだろうが,そうでない児童も多く出るのではないだろうか。②は児童の思いを優先させ過ぎて,「自由に」「たくさん遊ばせればよい」という状況である。放任状態であり,「活動あって学びなし」という状況である。このようになると,指導者として伝えなければならないことはさておき,児童がやりたいということが最優先となる。したがって,技能面や思考面において差が生まれることが予想される。「自由に」という言葉をはき違えると,児童の楽しいと感じることなら何でもよいとなる。そうなると,本来の「遊び」に近づくかもしれないが,学校教育における体育科授業としての枠組みから外れることは許されない。あくまでも,指導と評価がある授業という枠組みの中で,「遊び=学び」を目指しているのである。一番の理想は,③のように,児童の求めるものや能力と指導者が指導しなければならないことや指導者の願い,思いが一致する授業である。指導者には,指導すべきことやその伝え方を考えると同時に,児童の思いと自分の思いをすり合わせていく必要がある。児童の実態をつかみ,そこから自分の思いを合わせていくのである。自分の思いが先ではなく,児童の実態が先である。なぜなら,授業をする前の児童に「こういう授業をしたいから,ここまでできるようになっておいてね」などということは不可能だからである。その意味でも,指導者の意識が柔軟であることが求められる。指導したいことは明確に持ちながらも,そのことを前面に押し出さず,ここぞというポイントで,児童の姿から指導していくことが大切ではないだろうか。 ④励みとなる評価を続けること ~自己評価から励みの評価につなげる~ 児童が,「もっとやりたい」「楽しみたい」と感じることができるように,指導者は,児童の励みとなる評価をしていく。次頁図4-7は,B校第1学年で行った「とびばこあそび」における「励みの評価」に対する児童の受け取りの状況と「楽しさ」項目の形成的授業評価の推移を表したものである。 ① ② ③

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