001総教C030705H28最終稿(西田)
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本章では,「遊び」について研究をした文献から,遊びの本質をまとめるとともに,「遊びと体育」,「遊びと学び」との関係について考える。 現在,日本スポーツ界は,2020年オリンピック・パラリンピック東京大会開催という国を挙げた一大イベントを控えている。同時に,数々のスポーツ現場における暴力問題やスポーツ団体の不正経理,選手のコンプライアンス欠如の露呈といった危機が起きている状況にある。勝利のみを求め,選手育成やフェアプレイを軽視してきた結果だとして,スポーツのマイナス面がクローズアップされていることも多い。しかし,「スポーツの力は世界を変えることができる」(1)の言葉にもあるように,スポーツのもつ可能性は非常に大きい。また,スポーツを教材として扱っている学校体育の役割は非常に大きいのではないだろうか。 「遊びの中の学びを徹底的に大切にしています」この言葉は,京都市立幼稚園の取組を紹介するリーフレットのタイトルである。昨年度の研究において,「遊び」というキーワードを取り上げた筆者にとって,このタイトルは大変興味深いものであった。京都市立幼稚園では,好きなことに熱中し,十分に遊び込む体験の中で,自分で考え,探求していく学びの芽生えを育むことを大切にしている。つまり,遊ぶという直接体験自体を幼児期の「学び」としてとらえ,小学校の体系的な学習へつながるようにしているのだ。 昨年度,本市児童の体力,運動能力・運動意識実態を明らかにしながら,体力低下の原因について考察し,子どもの発育,発達の特性に触れながら,体力向上に向けて,「運動遊びを学校生活に取り入れる体力向上モデル」を基に,運動の生活化・日常化についての取組を実施した。その結果,運動との豊かな出会いが実現する授業を実践することができた。そして,外遊びを意欲的に実践する児童が増加し,体力の向上がみられた(2)。 本年度は,昨年度の研究を踏まえ,運動の生活化では ,低学年の授業に焦点をあてて研究を進めていく。「遊び」についての先行研究を基に,遊びの要素を取り入れた授業を行いたい。発達段階を踏まえた運動遊びの学習指導について,今一度検討し,低学年の学習モデルについて提案する。また,これからの時代に求められる体育科での学びを明らかにしながら,評価の在り方も再考したい。運動の日常化では,運動遊びが身近なものとなるように,計画的な運動環境整備を進める。「もっと遊びたい」「こんな遊びが楽しかった」という元気いっぱいの子どもたちが増えていくように,年間(1) 公益財団法人日本オリンピック協会『JOCの活動2014-2015』 http://www.joc.or.jp/about/mission/pdf/2014_2015.pdf p.11 2017.3.4 (2) 西田鉄平「No.577 生涯にわたって運動やスポーツに親しむ子の育成を目指して-運動遊びを学校生活に取り入れる体力向上モデルの実践-」『平成27年度研究紀要』京都市教育委員会 京都市総合教育センター 2016.3 pp..24~30 を通じた計画を提案したい。本研究で目指す子どもの姿を,「運動遊びを楽しむ子」と設定し,運動の生活化・日常化の取組を同時並行的に行う。結果として,体力の向上はもちろん,子どもの社会性や主体性の育成につながるかどうかを検証するとともに,筆者が考える「遊びの中の学び」について若干の提言を行う。 第1節 先行研究より (1)ホイジンガのプレイ論 ヨハン・ホイジンガは,著書「ホモ・ルーデンス」で,遊びの意味を広く社会全体の中に位置づけ,それが人間の文化を生み出し,育む根源的な力になることを示した。ホイジンガ以前のプレイ論は,遊びは遊び以外の何かに役立つものという手段的なものであった。しかし,ホイジンガは,遊びという行為を人間の欲求充足のための自己目的的な活動ととらえた。遊びの本質を,「人を夢中にさせる」「面白さ」とし,本気で遊びを行うことからも,「遊び」と「真面目」は対立するものではなく,「遊びは真面目に変わり,真面目は遊びに変わる」(3)ものであり,遊びは真面目に内包されるとした。遊びの目的は,遊ぶ行為それ自体の中にあり,遊びは,人生にとって不可欠なものであるから,遊びそのものが文化になるとしている。また,遊びに必要な形式的な特徴を以下のように述べている。 第1章 遊びという文化 ① 自由な行為 ② 非日常的な活動 ③ 利害を度外視した性格 ④ 時間的,空間的に区別された活動 ⑤ 秩序ある活動 (4) 小学校 体育科教育 1 5 はじめに

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