の向上にもつながった。1年次の研究を踏まえて,研究協力員は評価の入力を始めてから,学年の教師の中で道徳の授業についての話題が職員室で増え始めたと感じた。 また,学年全員分の自己評価の集計データを次年度に継続活用して,常に道徳の年間計画を適切な教材に刷新できる可能性を示せたと思われる。 更に指導の効果を把握しつつ授業力を向上するための取組として,1年次は「持ち回り道徳」を導入した。一人の教師がクラスを変えながら同じ教材を数回にわたって行う形式であるが,その教材研究や授業展開改善の指標として尺度の分析表が活用された。 研究結果として,まず,自己評価を行うことで,多くの生徒が道徳の授業に肯定的,能動的に取り組んでいる手応えことが伝わり,教師の指導に「道徳は役立っている」の自信をつけさせた(10)。 次に,生徒の受け止めが不足した項目について,即座に教材研究を行って,次時以降に改善・反映させられたことが,指導力の習得,魅力ある授業づくりに効果があった。事実,一回目の授業より,改善された二回目以降の授業のほうが,生徒の学びに対する受け止めの尺度は向上した。「持ち回り道徳」の,教師の授業力向上を図る際の有効性が証明されたわけである。 また,今回の新指導要領改訂で「考え,議論する道徳」が示されたのを受け,積極的に道徳の授業で議論する場面を組み込むことが打ち出された。教師が模範的な答えや行動化を提示するのではなく,生徒自身の力でその諸価値へ到達できることを信じ,任せる授業づくりとなるわけである。よって,授業後の分析結果から,ねらいへの迫り方や授業展開の成否を読み取り,その反省を授業の組立て,導入発問,中心発問の推敲などに反映できるこの方法は特に有効であると感じた。 他にも,研究協力員から特に効果的であったと評価を受けたのは,分析の結果を見ながら,学年の先生方と話をする機会が増えたことであった。 研究に先立っては,生徒の自己評価の分析をすることで,各クラスの先生方が結果を比較して,自身の指導に対して落ち込んだり,悩んだり,もしくは競うことばかりになるのではないかという懸念があったそうである。しかし結果は,自分のクラスの自己評価が低い生徒の傾向を比較してみたり,どのねらいや教材で生徒の評価が高かったかを話し合ったりなど,より先生方が授業展開やワークシートの改善の方策のために議論するよう中学校 道徳教育 7 になり,学年全体がもっと良い授業を提供したいという向上心をもって,道徳の時間に臨むようになったということだった。 第2節 2年次に繋げる研究課題と目標 しかしながら,成果を踏まえた上で,いくつかの課題も見えてきた。具体的には「自己評価が適切なものであるかの担保ができない」「自己評価を踏まえて出された記述式評価が生徒にどう受け止められるかの検証ができていない」「授業力向上への具体的方策が示されていない」の三点である。研究を1年次の成果からより発展させたものとするために,上記の課題をそれぞれの項目と関連付けて,2年次に向けて整理する。 (1) 自己評価の妥当性の向上 まずはPDCAに先立ち,R=リサーチ(事前調査)を,どのように1年次の自己評価システムに組み込むかという課題である。具体的には1年次にそれぞれの授業での道徳的学びの尺度化は行えたが,それぞれの内容項目ごとの到達度は学年当初にどこまで達していたのかの予備把握や,道徳の授業を終えてすぐの短期スパンと,数カ月が経った後の長期スパンではどのように変化し,定着したのかなどの事後把握である。それらを調査した結果があれば,評価をする際に,より高度な分析と良質な評価を提供できるのではないかと考えた。 また,1年次の自己評価の尺度化では,その判断基準の設定は生徒に委ねられていたが,2年次は大まかなルーブリック評価について,事前に生徒へ提案すべきだと感じた。どこまでの尺度が「とても」なのか「まったく」なのかの判断まで,生徒個々に委ねてしまっては,評価の妥当性と信頼性が担保されない。もちろん,内面の物差しを正確に揃えることはできないが,尺度がどの程度を意図しているのかという大まかな基準は示すべきであろうと考えた。 (2) 記述式による評価の完成度の向上 更に,出された記述式による評価に対する生徒の満足度についても調査・検証を行った。教師も生徒も満足でき,その後の様々な学びに有意義な効果をもたらす評価。生徒による自己評価はそのような評価を目指しているからである。 道徳の教科化が決まり,今まで取り組まれていなかった評価が入ることは,教師が行う業務の負
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