図1-5 自己評価から生じる好循環とその構造図 図1-4 「思考を深める」段階での外部からの評価の構造 だからこそ,生徒による自己評価が重要となる。外部からの判定ではなく,客観的に自己の学びを判断しようという態度から,道徳的価値に対する熟考が始まる。生徒による自己評価は厳密にいうと評価活動ではなく,学習活動である。自らの学びを主体的に評価しようという姿勢が,責任感をもって学ぶ姿勢につながるのだ。 ていることも徐々にわかってくる。いわゆるメタ認知の拡大である。その時期を経て高学年以上になると,今まで無批判に受け入れていた従来の価値に対して,批判的視点が生まれ,検証を行い,自意識が発達し,自分としての判断を求めるようになる。いわゆる反抗期であるが,それは児童生徒の心の内で価値の再構築が行われ,真の認知につながる大事な過程である。それに伴い,道徳の教材もそれまで単純化して提示されていた物語から,現実に即した複雑な状況を反映したものに移行し,一概には答えが出せないものになっていく。 また,以前であれば整合性のとれていた「道徳的判断力」と「道徳的心情」と「道徳的実践意欲と態度」の三つの距離は,必ずしもつながらなくなり,思考化と行動化が一致しないために,外部からの言動の観察によって,その道徳的価値理解の度合いを評価することは困難になってしまう。 上記の状況を以下の図1-4としてまとめる。 学びの主体は生徒である。教師はその過程で,成長を観察し,学びを拾い上げる者として評価に携わる。いわゆる生徒を査定し「下す評価」から脱却し,生徒の「良さを認め,励ます評価」への転換である。 その点でも,自己評価を軸にする形式は効果を発揮する。なぜなら,生徒が認めてほしい学びのポイントの一番の理解者は生徒自身であり,そこを的確に拾い上げることにより,自己肯定感の上昇にも好影響を与えると想定される。そうして,教師が生徒の真意を探ろうと苦労することがなくなり,生徒自身も自己を認めてもらえる安心感を持った評価が可能になる。このことからも,中学校道徳では生徒による自己評価を軸とする形が最中学校 道徳教育 4 適であると考える。 (3) 1年次の研究の概要 図1-2(p.2)に示した「困り」の構造を踏まえたうえで,道徳の授業を行いながら,生徒の真情に迫り,それと同時に教材研究・改善と授業力向上が果たされる運用モデルを構想した。その構造図が以下の図1-5に示す「自己評価から生じる好循環とその構造図」となる。 教師が質の高い道徳の授業を維持するためには,その授業のねらいの達成度という具体的な指針が必要である。いわゆるPDCAサイクルのうちの,「Do:実践→Check:成果・結果評価 →Action:改善策実施」にあたるのが図1-5の中央部分に矢印で示した箇所である。「生徒による自己評価」を中心に,道徳の評価を「学習状況の評価」と「指導の評価」の二種に分類し,それぞれに対して自己評価の蓄積と活用が,道徳の取組にプラスのフィードバックを起こし,向上の好循環(スパイラル)を発生させることを狙っている。 また,生徒による自己評価が中心に据えられることで,道徳教育の中心に生徒の受け止めや思いが生かされる形となり,教師も常に生徒の学びを意識して現場での実践を進めることとなった。
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