トの尺度と記述(図2-2,p.11),③まとめ振り返りシートの記述(図3-3,p.19)の三点である。 このうち②の尺度に関しては自己評価分析表に入力することで蓄積するが,記述についてはファイルに綴じる形で保存することが適切であろう。 また,道徳の時間の終末における振り返りで使用するルーブリック表は 参照しやすいように, ファイルの目に付く場 所へ添付するのが望ま しい。以上のような道 徳ファイルの作成例を 図4-6として示す。 図4-6 道徳ファイル作成例 こうしてまとめておけばワークシートは継続性をもって保存され,教師が評価する時点で手元にないということもなくなるであろう。 ちなみにワークシートの記述を学級通信で取り上げるなどの取組を行う場合には,授業後に一度ワークシートを回収し,尺度入力や記述内容の確認や紹介を行ったのちに返却して綴じさせることで対応は可能である。 また①と③についてであるが,年度当初と年度末という時期を限定して取り扱うことが考えられるため,二つをまとめて道徳の通知表とすることも構想できる。そうすると左側の年度当初のセルフチェックを確認しながら,自身の道徳的価値に関する成長を今一度振り返った上でのまとめ振り返りになる。その期間に行った道徳の授業内容も別紙としてはさめば,保護者に道徳授業がどの時期に,どのようなねらいをもって,どの教材を使って行われたかも一目瞭然となり,学校の道徳への取組への理解を得ることができると考える。 図4-7は道徳の通知表として作成した例である。この例では,ま とめ振り返りの 下に教師の評価 を貼り付ける欄 を設け,中に閉 じることでプラ イバシーの保護 がなされる配慮 を行った。 図4-7 道徳の通知表作成例 このシステム設計の際にも,できるだけ従来の取組を生かす形で考えた。過重な負担を強いるシステムは長続きしない。ただでさえ,現場の教師は教科化となった道徳の授業をどのように進めていけばいいかを,実践しながら学んでいかねばな中学校 道徳教育 30 (36) 前掲(20) p.9 らないのだ。教師の労力はそれらの研鑽や,自らの学びを認めてほしい生徒へ費やすべきだと筆者は考える。 中学生の時期は,自己肯定感の低下や挫折感に苦しみながら,自我の礎を築く期間である。その重要な成長に携わる責任感をもって,教師は道徳に臨まなくてはならない。 2年にわたり,「生徒による自己評価」を活用した道徳科の評価について実践研究を行ってきた。心掛けたのは「道徳の授業力と評価の内容の充実」と「現場の教師の負担軽減」である。私たちはこの二者を相反するものと感じ,どちらかを取捨選択せねばならないと捉えがちだがそうではない。道徳科が真に有意義な教科化を目指すには,両立する道を探らねばならないと筆者は考えた。 道徳科は教師が生徒たちに「人生において,大事にするべきことは何か」を考えさせる,かけがえのない時間である。全人教育である日本の教育の「要」と考えられる道徳科が,質的にも量的にも保障されることには大きな効果が見込まれる。 そのためにも,生徒と保護者が意義を感じ,教師が意欲を感じる道徳科の運用システムが必要である。道徳に携わるすべての人の笑顔を生む,心の通ったシステムを私たちは目指さなければならないと考える。 従来の評価は「向き合う」ことをよく要求する。しかし,道徳科の評価は,生徒・保護者に対して「向き合う」ことを求めるのではなく,その傍に立ち,「寄り添う評価」でありたいと思う。 最後に京都市立旭丘中学校及び京都市立大宅中学校には,本研究の主旨を理解していただき,実践授業や実験的な評価の試行,貴重な生徒・保護者アンケートに研究協力をしていただいた。ここでの実践を分析することにより,記述による評価に必要な要素,被評価者の道徳の評価に求めるものが明確となり,研究に大きな価値を与えるものとなった。両校の研究協力員,そして学校長をはじめとする教職員の皆様,道徳の時間に生き生きと取り組む姿を見せてくれた生徒たちと貴重な意見をいただいた保護者の皆様に,心より感謝の意を表したい。また,本研究がこれから始まる道徳の教科化の一助となることを,心から願いたい。 おわりに
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