⑦ 「場面発問」から考え,最後に「テーマ発問」 教材から考える発問である「場面発問」を行った後,最後は「ねらい」で示した道徳の内容項目に即した「テーマ発問」を行うことで,考えることがぶれないことをねらう。教材を通して学んだ「個別の状況」から,関連する内容項目についての「普遍的な考え」につなげることで,道徳的諸価値の実感と実践意欲の伸長をはかった。 価値を再考させる。新たな視野で考えを深めるための発問を心がけた。 登場人物の「着ぐるみ」で一人の人物を追う読み取りも重要ではあるが,発達段階に応じて,最後まで「着ぐるみ」を着せたままで終わる展開から脱却し,中心発問から終末において多面的・多角的な視点から考えさせるアプローチを導入することで,道徳的価値のもつ複雑な様相について考えを深めることが可能になった。 第2節 今後の評価導入に向けての展開 (1)自己評価に基づく評価の展望 道徳科の評価が「数値ではなく記述式とする」「成長を認め,励ます個人内評価とする」(36)と示されてから,教育現場では評価について「どのような方法で評価に迫るのか」「どれだけの記述量が求められるのか」など,数多くの議論が交わされてきた。時間や労力をかければ良質の評価が提供できるとはいえ,多忙感が充満する現場の教師の負担はなるべく抑えるべきである。とはいえ,効率化のみを追い求めて小手先の評価を出してお茶を濁すようなことがあってはならない。教師の努力に見合った成果を得られる評価のシステムを,考案することが重要である。 評価の記述量に関してはできるだけ軽減しようという見方もあるようだが,生徒・保護者の満足度が低い評価をすることになれば,道徳の教科化が現場にマイナスに働くこともあり得る。逆に,道徳の評価を行うことで,教師・生徒・保護者が互いに満足感を持つことができれば,高い信頼感を築く礎となることも可能なのである。 重要なのは「教師の負担感が少なく」「生徒の真情に迫ることができ」「生徒・保護者の満足感が高い」という三つのバランスが取れた評価の構築である。しかもその評価は道徳の運用システムと連動し,「指導の評価に還元する」「授業力の向上につながる」ものであればなお良い。そのよ中学校 道徳教育 29 うなシステムを構想することが,道徳の教科化に大きく寄与するものだと考える。 (2)道徳の評価で重視すべき項目の提案 今回の研究で道徳の評価を行うにあたり,重要であると確認した項目は四つある。 まず一つ目は,何より教師からの具体的で的確な授業での見取りを記述することの大切さである。抽象的,もしくは定型化した記述では到底,生徒の真情に迫ることはできない。「よさを認め,励ます評価」であるならば,そこには対象とする具体的な姿が必須なのである。その解決については,本研究では普段の授業から注目すべきポイントを提示するための尺度分析の継続記録分析表(図1-7,p.6)とまとめ振り返りシート(図3-3,p.19)を提案した。そしてその成果として被評価者(生徒・保護者)から高い満足度(図4-2,p.26)を得ることができている。 次に二つ目は,上記以外の部分における記述の精選である。すべてに手間を求めるシステムであれば,その運用者の多忙感は募り,疲弊してしまう。効率化を図れる部分は図り,教師の負担感を取り除くことで,本当に必要な部分に十分な手間をかけてもらうことが可能になると考える。その解決についても,本研究では第3章の第1節(5)と(6)に整理案と効率化を提案した。こちらも成果として,1クラス30人を1時間半から3時間の時間で評価が作成できるという実績で,高い水準と効率化の両立を図ることができた。 三つ目は生徒による自己評価の正確性を担保するための手立てである。本研究では指標と成るべき生徒用ルーブリック(表2-3,p.12)を示したうえで,あくまで「自己評価は学習活動である」という視点から,生徒の姿を読み取るための整理(表3-1,p.17)を提示した。その結果,様々な尺度から生徒の前向きな姿を見取ることができ,生徒から評価に不満が出なかったこと(図4-3,p.26)につながった。 最後の四つ目は評価材料を蓄積する手段の整理である。ポートフォリオ評価としても重要なことで,いかに蓄積するか,蓄積した評価材料をいかに参照・活用しやすくするか,どのような情報を蓄積するか,などについて考案することが必要である。その蓄積するべき評価材料について,本研究から有効性が確認されたのは,①事前セルフチェック(表2-1,p.10)による純然なる道徳内容項目への意識の把握,②毎回の授業でのワークシー
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