① ねらいの提示 ⑥ 逆転の発想や批判的視点の投込み,くさび を確認しておくことが可能になる。また,それでも成長の見取りが難しいことが分かれば,その生徒の授業での姿の見取りを意識することができ,授業プランから意識して当該生徒に働きかけることも可能になる。 実際に,昨年度から尺度評価の分析を経験しているB中学校の教師では,時間の短縮はもっと顕著に表れた。各担任は自クラス30名について,約1時間30分平均で記述式評価を記すことができ,中でも研究協力員の教師は30人を1時間で評価することができた。その理由は昨年度の研究で生徒による自己評価に一年間取り組んだことで,この研究が従来であれば学びの見取りが難しい生徒を早期に把握できることを理解していたからであり,生徒による自己評価単独での運用ではなく,授業での見取りなど互いに補完することで大きな効果が見込めることを理解していたからでもあった。 (2)指導の見直しに効果的だった八項目 今回は指導の評価の視点からの授業プラン見直しも行った。具体的に改善の効果があった指導の項目を以下の七つに整理して提示する。 京都市の多くの小学校では実施されているが,授業の最初に扱う内容項目を「ねらい」として示し,その日の教材で何について考えるかを知らせる。そうすることで迫るべき内容項目がぶれることがなくなる効果を見込んでいる。ただし中学生の時期は,既成のものや教師からの決めつけに対して批判精神で臨み,反発を覚える時期でもある。そこで事象からねらいを生徒自ら発見し,獲得することでの達成感を得させることをねらう場合,示唆する程度に留めることが有効な場合もある。 よく生徒に驚きを与えることをねらって,教材を分割提示したり,物語の終末を隠した状態で考えさせたりもするが,本当に必要なのかを考えた。効果を大きくするための工夫なのか,それとも生徒が普通に読み取れることを焦らしているだけではないかの見極めが必要である。もちろん,展開を隠してその前段階の浅い考えをしている自分に気づかせることの効果も否定はしない。しかしそれと同時に,すべての考える条件がそろったうえで,まだ迷うような奥深さのある教材の魅力を引き出せているかを自答してほしいのである。 読み取り教材の際に,物語の内容を理解させるために行っていた補助発問を省いた。道徳科は国語科ではないので,内容理解のための援助としてあらすじや状況説明を最初に行うことも考えに入れておく。そうすることで中心発問に多くの考える時間を割り当てられた。 授業の中で「数直線」や「座標軸」に自らのネームプレートを貼り,考えを表明する機会を与えることで,単なる「yes」か「no」の二択ではなく,それぞれの考えには差異があることを実感させた。立場の違う理由への知的好奇心を刺激する「数直線」を使ったワークシートを図4-5に示す。 生徒同士で「なぜそう思ったのか?」を触発させ,活発な言語活動を引き出し,互いに語り合う仕掛けを心がけた。また授業の最初と最後でネームプレートを移動させ,自らの考えが変わったことを確認させるなど,振り返りに使用することで,生徒が自己の変容の把握や整理が行えた。 ただし,「数直線」や他にも「座標軸」を使った意思表示,四分割での立場思考などがあるが,大事なのは「その授業のねらいとして何を教えるか」である。迫るにはどのツールを使うのが最適なのか,という思考で使用し,技巧に走ることのないように気をつけなければならない。 「読めばわかる」発問を見直し,「簡単には答が出ない発問」「人によって考えが分かれる発問」「理由を語り合いたくなる発問」を導入した。対話的な深めが行われることで,現実世界の複雑な様相の理解と,それに対応した実践力の向上を図ることができた。 正論や常識など,無批判に議論することなく進んでいた考えについて,もう一度「違う角度・立場から」「気がついていない考えに」焦点を当て,② 分割提示から,一気読みへ 図4-5 数直線を使ったワークシート例 中学校 道徳教育 28 ③ 内容理解のためのみの発問を削減 ④ 思考ツールの効果的な使用 ⑤ 多面的,多角的で深める発問への精選
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