平成27年3月27日に中学校学習指導要領の一部が改正(1)された。この結果,それまでの「道徳の時間」は平成29年度から「道徳科」「特別の教科 道徳」に格上げされることとなった。 この動きを受け,現場では教科化に際して主に三つの課題が提起された。一つ目が「教科書」をどう採用するのか,二つ目が「教師の免許取得・授業力」をどう処理・確保するのか,そして三つ目が「評価」をどう導入するのか,である。 このうち,一つ目の「教科書」については,教材として検定教科書を作成,採用することが決定した。文部科学省からは『「特別の教科 道徳」の教科書検定について』(2)が平成27年7月に通達され,同9月30日には「教科用図書検定規則,義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律施行規則及び義務教育諸学校教科用図書検定基準」を改正(3)することが告示された。こうして各出版社に作成する指標が示されたことで,提供される教科書は,きちんと道徳的内容項目に準拠して作成され,教材として一定の水準を保証されることになった。それまで,副読本と多くの自作教材に頼っていた現状では,生徒に提供される教材の出来にばらつきがあり,今回,道徳的な理論に裏打ちされた教材が提供されることになるのは大きな前進といえる。 次に,二つ目の「教師の免許・授業力」の問題であるが,新たな免許は出さず,道徳を「特別の教科」としたうえで,道徳教育についてより深く学ぶことが専門委員会で提案された(4)。現職の教師に対して免許更新制度の中での研修を強化することや,教職を目指す学生に対して教員養成課程制度の中で学ぶことがそれである。しかし,何より早急な対応が求められている現職教師の授業力向上についての具体的な方策は見えてこず,いまだ制度としての整備の過程である。道徳の教科化の完全運用に向けては,現場レベルでの授業力向上が不可欠であり,より具体的で実現可能な運用方法の改善が急務である。 最後に,三つ目の「評価」についてであるが,最も解決すべきポイントの多い課題となっている。教科化が検討された時点から,評価については様々な議論が重ねられ,今は「道徳科で評価を行う」という前提のもと,どのように「記述式による評価を行うか」の段階に入っている。だが,「何を根拠(評価基準)に,どう評価したらいいか(方中学校 道徳教育 1 法)がわからない」などの困りは今も散見されている。それでもなお,文部科学省は具体的な評価例を取りまとめている過程であり,道徳の教科化の完全実施が迫る中で,この課題には喫緊に取り組む必要が生じていた。 そこで1年次は,道徳科の評価について焦点を当て,道徳の生徒による自己評価を軸に道徳の運用システムを提案する研究を行った。 道徳の授業ごとに生徒が自らの学びを評価し,尺度によって判断した数値を記録する。その記録を,教師が道徳授業での生徒自身の学びについて読み取る参考資料として位置付けた。また,記録の分析手順を整理し,教師の授業改善の課題を示唆から改善に至るまでの実践を行った。その結果,研究協力校のデータからは,教師の道徳における意識に多くの改善が見られた(5)。 ただし,自己評価に関しては,その正当性,信頼性の担保をどうするのかなどの課題も見え,記述式による評価へ繋げる為にも,自己評価の判断基準に,ある程度の指針を示す必要性を感じた。 また,1年次の研究では自己評価を分析することで学びの不足が生じた項目を把握することはできたが,その解決を図る手立てを講じることは現場ではなお困難であり,今後も大きな困りとして継続すると思われる。よって,困りの解決のために,授業実践と並行しながら,授業力向上の手立ての整理を行うことも急務であると実感した。 以上のことから,本研究の2年次は,「自己評価に妥当性を持たせるための精度向上」と「記述式による評価のモデル作成と検証」,更に「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を組み込んだ授業力向上への発展」について研究し,効果も検証した。 第1章では,1年次に取り組んだ「道徳における生徒による自己評価」の研究と成果についての検証と課題の整理について述べた。 第2章では, 生徒による自己評価を基幹とする道徳の運用システムを発展・補完したものを構想した。生徒による自己評価に事前セルフチェックを導入し,年度当初に純粋な道徳的価値に対する意識を把握できる手立てや,道徳科におけるルーブリックによって妥当性を担保する取組を考案した。また,自己評価の分析から得た成果を活用した授業力向上への手立ても提案した。 第3章では,そのシステムに基づいて,研究協力校での,道徳における生徒による自己評価とその分析を行い,道徳の記述式による評価の導入に, はじめに
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