001総教C030705H28最終稿(中山)
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② 保護者の受け止め ③ 教師の受け止め ここで注目すべきは,今回の評価の試行を受け,生徒の中では「不満」「やや不満」を示したものは一人もいなかったということである。しかも「満足」「やや満足」については,保護者の方が高い比率になっているものの,それでも80%を越えていた。 その理由としては,道徳科の評価が「認め,励ます評価」であることから,教師は細心の配慮をもって評価に取り組んだことが考えられる。第3章の第1節(6)でもとりあげたように,教師は学習開始当初からの伸び,毎週の振り返りの見取り,まとめ振り返りからの確認などを通して記述式の評価を行うことができた。その内容での手厚さが伝わったことが生徒の満足度に反映されたといえ,このことから今回の記述式評価の方法が,十分に実用に足るものになったと考えられる。 次に,「授業見取り」記述の有無による保護者の受け止めを比較した。ここで保護者を抽出したのは,普段の授業での情報が少なく,出された記述からの判断に頼る部分が多いため,より顕著な反応が出たからである。グラフを図4-4に示す。 図4-4 「授業見取り」記述の有無による変化(保護者) 第3章の第1節(6)で紹介した,教師が授業での見取りから個々の学びについて詳述する部分の有無による評価の違いである。実際にはひと手間の違いではあるが,記述なしが「5」「4」合わせて79.5%に留まったのに対し,記述ありは「5」「4」合わせて93.5%にまで達していた。 また,「2」「1」をつけていた回答者が,全体の中で記述なしの評価を受け取っていたグループであったことにも注意が必要である。対象生徒が異なっているため,この比較自体はあくまで参考として取り扱うべきであり,またこの割合自体が全体のわずか2.6%であると受け取ることもできるが,道徳教育ではこのような小さな声を拾い上げることが大事であると考える。 中学校 道徳教育 27 道徳教育での評価が記述式で行うとされ,各自治体などでその対策が協議される中で,教師の負担を増やさないためにその記述量は二,三行になる可能性もある。しかしながら,今回の試行ではその倍以上の記述であった場合にも,「不満」「やや不満」を感じた回答者がいたわけである。また記述量が減るということは,内容も学びについて詳しく取り上げることが難しくなるということである。そうなった場合,図4-3に見られる以上に,被評価者の満足度が下がり,不満度が上昇することを予想することは難くない。そしてそのような結果は,道徳の教科化に際して目指したものとは相反するものなのである。 道徳の授業を通して生徒たちは自分の生き方について向き合い,教師がそこでの生徒の成長を認め励ます評価を行うことで,生徒,保護者との絆を強める。生徒,保護者,教師の三者が協力してそれぞれに成果を受け取ることができれば,道徳の教科化は成功したといえるだろう。逆に,道徳の評価を行ったことで評価者と被評価者の間に不満や不信感が生まれることになれば,その評価は失敗だといえるのではないか。だからこそ,道徳の記述式評価において,教師の負担感を考慮しつつ,しかしながらその記述内容を担保することは最も重要なことだと筆者は考える。 今回,記述式の評価の試案に取り組んだ研究協力校の教師に,評価の実効性について聞き取りを行った。今年から尺度分析を始めたA中学校では,担任が評価をつけるにあたり,クラス30人に対して約3時間の時間を要したということだった。しかしながら,今回は初めてのことなのでノウハウがなく,最後に評価する段取りを考えて普段の記述式評価に臨んでいなかったためもあり,それを意識しておけば,次回に評価する際には大幅に文章作成にかかる時間を短縮できるであろうということであった。 具体的には,道徳の自己評価分析表は第1章の第5節(5)の①で示したように,入力した際に瞬時に色づけし,視覚化されている。よって,毎回の自己評価が継続して低い生徒が即時性をもって把握できるように設計されているわけである。 道徳の記述式評価をつける際に教師が苦慮するのは,成長がなかなか表面的に見えてこない生徒の場合である。よって,そのような生徒を早期に把握できれば,評価時期までに記述での振り返り

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