001総教C030705H28最終稿(中山)
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本格的に活用したわけであるが,その結果,昨年から継続して研究協力校であるB中学校では,生徒たちの尺度評価の傾向に変化が見られた。 具体的には,本年次から導入した表2-1(p.10)の事前セルフチェックシートのオリエンテーションなどで各内容項目の説明を行ったのだが,その中でワークシートの「道徳的判断力」「道徳的心情」「道徳的実践意欲と態度」の諸様相について説明し,生徒の学びの理解を把握するために,教師がその一つ一つを毎回確認していることなどを伝えた。その結果,生徒が一つ一つの項目について,熟考して評価をつけるようになったのである。 以前であれば,全体としての受け止めが「5」程度と感じた生徒が,そのまま全項目に「5」をつける傾向も見受けられた。それが,自己評価がきちんと「見られている」と感じたことで,より真剣に向き合い,各様相からの視点で自らの学びを検証するようになったわけだ。結果,B中学校では,自己評価の平均の合計値は以前より下がった。しかし,道徳の授業への意欲は全体的に高まり,話合いなども以前より活性化したのである。 また,この結果は,もう一つの懸念を晴らす示唆も生んでいる。自己評価の導入にあたり,心配されたのは「自己評価が間接的にでも自分の評価に繋がるのであれば,『良い評価を得よう』とむやみに高評価を自分に付ける生徒が出てくるのではないか」という懸念である。もし,実際に普段の言動などを見ている中で「本当にその価値がわかり,定着しているかが疑問である」と感じる生徒が出てきた場合にはどのように評価すればよいのか。現場ではそのような迷いも聞かれた。 もちろん,道徳の評価は「認め,励ます個人内評価」であるので,上記のような自己評価をしたとしても,それを認め,励ます評価をすればよい。自己評価を想定外に高くつけたとすれば,それはその生徒の「自己有用感の喪失」の裏返しであったり,「自己を認めてほしい意志」の表れであったりする。ならば,それを受け入れた評価を教師が行うことで,その生徒の「自己肯定感」を高め,「高い道徳的実践意欲」につなげていけばよい。 なぜなら,道徳の評価は「下す評価」ではなく「育てる評価」である。高い道徳性に導くことを考えれば,高い自己評価を肯定することも有効な手段といえるからだ。 元来,中学生は自己肯定感が低く,自分に対して肯定的というより,できないところを探す否定的な視点を持ちがちである。道徳の自己評価にもそのような自己への厳しい目が発揮され,上記の仮定が杞憂であったことを示している。 生徒による自己評価の尺度数値については,生徒の道徳性の成熟によって,幾分下がることも1年次に検証しているので以下に引用する。 (1)尺度評価から指導への活用 1年次から引き続き,尺度評価を研究の中心として協力校に導入してもらった。また,1年次には道徳の運用システムの提供のみであったところを,本年次はOJTとして各学校が何に取り組んだらいいのかという手立ての蓄積のために,各学校の道徳部会にも参加した。尺度評価によって示された困りの整理やその解決のためのアドバイスなどから「考える道徳」への転換に向けての援助を行うためである。 今回,研究協力を引き受けていただいたA中学校であるが,2年前に道徳での文部科学省指定校であったこともあり,道徳の時間は安定した形で運用されている。特に読み物教材に関しては,専門的な研究者も所属していたために,教材分析の力など高い水準で維持されていた。 実際に,A中学校の教師はp.14で紹介した「着ぐるみ」の実践などで,生徒たちの「道徳教材からねらいを理解する力」には一定の満足感を持つ一方,「生徒が互いに考えを述べあい,議論して磨き合う力」については課題を感じていた。 数値を単独で扱うべきでないのは,これらの自己評価 が「個人内評価」であるという点でもある。生徒の実感 に由来した道徳的ねらいへの到達度は,その生徒の意識 の高さによって変動する。尺度として「2」を付けたか らといって,その個人の道徳性が低いわけではない。そ こではその学びにおける自己の到達点を,高く設定した がゆえの「2」である可能性があり,その尺度の意図を, 記述による振り返りについて検証することで,正しい評 価の材料として補完できるわけである。(35) これは,第1章の第1節(4)で「自己評価を道徳の評価に直接転用は行わない」と述べたもう一つの根拠にもなっている。あくまで自己評価は,そのものが評価活動とはならないことは絶対だ。だが学習活動として,生徒たちが自己の学びを真剣に向き合おうとする効果が自己評価の導入で生まれている。確かに自己評価の尺度自体は厳しくなり,低くなるのだが,学習効果や学習意欲が以前より上がることを教師は見取ることができた。 第2節 指導の評価に関する実践 中学校 道徳教育 23

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