② ルーブリックからの見取りの整理 ① 評価した様相の整理 生徒が選択した視点が,三つのうちのどれであるかは,図2-2(p.11)で示したワークシートにおいても,また,図3-3(p.19)で示したまとめ振り返りシートにおいても,一貫して道徳性の諸様相を意識した構成になっており,判定は容易だと思われる。そのうえで,該当の授業から,ポートフォリ③ 三つの視点から迫る評価の手順 三つの視点に対する意識から,評価に繋げることも可能である。「尺度評価の継続記録」を分析表に入力した場合,別欄を設けて各視点の平均が計算されるようにしてあるので,それを比較することでどの視点に顕著な学びがあったのかを確認することができる。三つの視点の中で最も自己評価が高かった視点について,まとめ振り返りシートの記述を確認して評価に繋げることもできる。 以上の三つ以外にも組合せや注目するポイントのバリエーションによって,様々なアプローチが可能と思われる。そうして迫った生徒の真情について,記述式評価を行うこととなる。 (5)道徳科における評価の具体的な展開 では実際に記述式評価を行う際に,何を通知情報として記していくのか,評価に向けての展開を整理したい。 道徳科における評価が「個々の内容項目ごとではなく,大くくりなまとまりを踏まえた評価を行うこと。」(33) とされたことに従い,教師が個々の内容項目を一つ一つすべて取り上げて評価する必要はない。評価の対象となる期間で,顕著によい学びがあったときを見取り,評価するわけである。また,この評価は生徒や保護者に通知するわけであるから,評価の対象となった時期,内容項目,教材などを示した方が,スムーズに学びの振り返りの共有ができると考える。 さらに評価するにあたって,その生徒が「道徳的判断力」「道徳的心情」「道徳的実践意欲と態度」の道徳性の諸様相のうち,どの視点の学びに手応えを感じたのかを明確にすることが推奨される。記述するための,諸様相の学びについての平易な表現を,整理して以下に表3-2として示す。 表3-2 三つの様相で該当する学び 中学校 道徳教育 20 オとして保存しておいたワークシートやまとめ振り返りからの記述により,優れた考察を行った箇所を抜粋して示すわけである。 抜粋した記述を示したあとは,そこから見える生徒の姿について,教師が整理することになる。ここで重要なのは,生徒の行った自己評価の尺度について,従来の数字による評価の先入観から脱却し,様々な可能性を認識することである。 つまり,自己評価で「5」を付けたら,その生徒が優秀であるなどという単純なことではない。「5」は自分の道徳性への満足度が非常に高く,自己肯定感が高まっている安定した状態と読み取れる一方,現状に満足し,向上の必要を感じていないとみることもできる。 同じく「3」や「1」を付けた生徒の道徳的学びが低いとは限らず,「現状の到達度に満足していない一方,これからの自分がまだまだ向上できる伸びしろを感じている」との解釈も可能であり,むしろ,道徳的学びに対する意欲は,より高い可能性もある。この視点こそが自己評価を最大限に生かす発想であり,生徒の良さを認め,励ます評価に繋がると感じられる。 具体的に表3-1(p.17)のルーブリックからの見取りを示す。多様な読み取りを設定し,一様相の一尺度につき,五つのバリエーションを想定した。たとえば,「道徳的判断力」で尺度に「2」をつけていた場合で,達成度に不満を持っていた姿が見取れたなら「道徳的価値の大切さを感じながら,現状での難しさに思いをはせていた」という評価になる。 また,教材で示された展開に納得がいかない姿が見取れたなら「教材の内容について様々な可能性を探り,真実を見極めようという意識で授業に臨んでいた」という評価を採用する。 このように,尺度の数字の先にある姿が重要であり,そのためには,やはり普段からの見取りが不可欠である。 この結果,尺度からの見取りの姿だけで,道徳の3様相×5つの尺度×5つの姿が想定できることとなり,全部で75のバリエーションを準備できることに至った。 また,文部科学省の評価検討会議でも何度も取り上げられたように,生徒の記述のみから評価に迫った場合,学習障害を抱えるなどの記述を不得手とする生徒が,不利益を被る可能性があること
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