① 時系列に沿って評価する手順 ② 時系列をさかのぼって評価する手順 図3-3 まとめ振り返りシートの生徒記述例 に大きく得心することもありうる。 特に道徳の時間で取り扱う課題は,その時間内で解決するとは限らない。生徒の精神年齢の発達段階に応じて,人が生きる上で大事だがその実現が難しい課題などを取扱い,その授業内では完結させず,その後も考え続けることを求める学びも多くなってくる。それらの中長期的な良い学びにも目配りをすることで,より適切な評価が見込めるわけである。 そのうえで,提示した該当期間の道徳授業の中で,「もっともその価値について考えた授業は何か」「もっとも心が揺さぶられた授業は何か」「もっとも自分の生き方について影響を与えた授業は何か」の三項目について選択し,選択した理由についても記述させる。発問項目のそれぞれは「道徳的判断力」「道徳的心情」「道徳的実践意欲と態度」に関連しており,各項目の記述を検証することによって,生徒の各項目における中長期的に顕著な学びを見取ることができるようになっている。以下の図3-3にその形式を用いて行った生徒の記述例を示す。 またこのシートのもう一つの利点は,生徒がここでは取り上げなかった授業での学びについても,よい効果が見込まれる点である。振り返りで良かった授業を選択する際に,図3-2(p.18)のまとめを確認することによって,期間が空いて薄れていた中学校 道徳教育 19 学びについても,あらすじや発問を再確認を通して再び問いの投げかけが行われ,その中で学び直しが生じるわけである。 (4)アプローチの併用による相互補完 三つのアプローチについては,それぞれ単独で適用し,評価を出すことも可能であるが,より綿密な生徒理解のためにも,三つを連携させて適用することが望ましい。具体的には,まとめ振り返りから,ポートフォリオ評価として保存しておいた記述と尺度の両面にあたり,また,事前セルフチェックではどのように自己の到達度を判定していたのかを確認するなどである。そうすることで互いに補完しあい,生徒の真情に限りなく近づくことができる。 まず,時系列に沿って変遷を見る手順として,「事前セルフチェック」で生徒が「できていない,課題がある」と感じている内容項目がどの価値なのかに注目し,その道徳的内容項目をねらいにした授業を抽出する。そしてそのときのワークシートの記述と尺度を確認し,その評価が上昇しているようであれば,「課題意識をもっていた【道徳的価値】に対して,意識や理解の深まりが見られた」と捉えて記述評価する。 また,まとめ振り返りシートも点検し,そこでよい学びができたと取り上げている三つの授業の中に含まれていないかを確認して,取り上げていれば,「意識が格段に向上したと自身でも感じている」と捉えることもできる。 次に,時系列をさかのぼる形でのアプローチも可能である。手順としては,期間の最後にまとめ振り返りシートによる振り返りを実施し,「道徳的判断力」「道徳的心情」「道徳的実践意欲と態度」にまつわる三つの振り返りのうち,最も内容が充実した記述がどれであるかを見取る。 ポートフォリオとして保存していたその授業のワークシートの記述や尺度を確認し,そこからさらに事前セルフチェックではどれくらいの課題意識をもっていたかを振り返る。もしそこにも該当するなら,「~の道徳的価値については,年度当初からもっと深く考えたいと捉えており,道徳の授業を通して,大きく意識が向上した」と捉えることができる。
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