育活動を通して,子どもが実現すべき価値や意味が実 際に血肉化したかどうかを確認する。この行為が評価 である。保護者は,各教科の結果が記録された子ども の通信簿を入手することによって,成長・発達・成熟 の度合いを知ることができる。 教師の教育活動を子どもの眼によって評価していく方 法が取られている。このような学校では,教師は従来 の評価をする者から評価をされる者へと変わるのであ る。教師は,いま行われた授業について,子どもから の授業評価を通して,自己分析することが可能となっ た。つまり,教師は,子どもがどこでつまずきやすい のかを発見することができ,自己の教材の理解度や自 己の教育方法の妥当性を明らかにすることができるよ うになった。 関心を向けてくれるため,新鮮で傾聴に値する内容を 多く内包している。(11) ここで語られる評価は教師に役立つ「指導の評価」における視点であり,生徒による自己評価が教師の指導力向上に資する点が語られている。また,「学習状況の評価」の面でも,先の一部改訂で道徳における評価を「数値による評価ではなく,記述式であること」(12)と示されたことから,様々な道徳に関する学会などでも活発な議論と提案が行われている。しかしながら,「生徒に返す」学習状況の評価について,その多くが「どのように評価するか」という議論が中心である。教育現場で評価を行うにあたって第一義とすべきは「生徒に役立つ」学習状況の評価,つまり「その評価が生徒の学習にどれだけ寄与しているか」であることを忘れてはならない。 (6) 文部科学省「道徳教育実施状況調査結果の概要(平成24年度実施)」 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/01/04/1282847_1.pdf 2017.3.6 p.10 (7) 前掲(6) p.10 (8) 島恒生「道徳の時間の評価の在り方と工夫」 http://www.nps.ed.jp/nara-c/gakushi/kiyou/h17/data/a/a13.pdf 2017.3.6 p.2 (9) 文部科学省『中学校学習指導要領解説 特別の教科道徳編』 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2016/01/08/1356257_5.pdf 2017.3.6 p.109 (10) 前掲(5) pp.26~27 担が増えるということでもある。その際に現状以上の負担の軽減を考え,作業の効率化を考慮することは重要である。だがその一方,出された評価が,教師と生徒の両方にとって,意義あるものでなければならない。道徳が心の教育である以上,その評価も生徒の心に響く評価を目指すべきであろう。その目標を忘れて効率化のみを求め,真情に届かない評価を設計することは,道徳の真の目的が果たされなくなることになる。使いやすく,それでいて教師と生徒の心をつなぎ,豊かな心の教育に寄与する評価が必要である。 (3) 教師の授業力向上への具体的な示唆 また,生徒の自己評価を分析することによって,道徳の授業の中での展開など,不足部分を指摘することが可能になったが,それを受けて「どう改善するか」という具体策までは提示できていなかった。多くの道徳の授業に対する困りが存在しているが故に,その解決への示唆を蓄積,整理し,提示できれば,より多くの教育現場への還元となるであろう。よって,それらの授業力向上への手立てを整理し,道徳での自己評価分析表との関連付けも試みた。 次章では評価の様々な手立てやルーブリックなどについての概念を整理し,課題を解決するための方策を踏まえた研究構想を述べる。 第1節 評価の概念の整理 筆者の研究では自己評価に注目し,それを道徳教育における評価の軸として考えた理由を第1章で述べたが,今一度,自己評価自体を確認するとともに,課題を整理したい。 山﨑が著書の中で述べた,一般的な教科で行われる従来の評価と「自己点検」として行われる自己評価についての比較を以下に引用する。 以前から学習指導要領解説の記述にも「あくまでも生徒の道徳性の評価は,生徒が自らの人間としての生き方についての自覚を深め,人間としてよりよく成長していくことを支えるためのものである」(13)とある。このことから,ここでは自己評価が生徒に与える効果について考えたい。 再び,山﨑の述べた「評価の役割」について,教師は,配慮された教育環境のもとで,意図的な教しかし,現在では,このような評価法に代わって,立場の違った評価法は,日頃見落としがちな部分に中学校 道徳教育 8 第2章 自己評価システムの発展
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