001総教C030705H28最終稿(中町)
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教育の全ての場面で必要とされる力である。しかし,前述のとおり,学校図書館では子どもの学びが多方面に広がりやすいため,より一層,子どもの学びを見取る力が必要である。本研究では,それらを助けるツールとして,3種類の「対話カード」を活用した。「対話カード」への子どもの記述から,教師は子どもの考えていることをある程度見取ることができる。しかし,最も重要なことは,何か一つを見て判断しようとするのではなく,さまざまな子どもの姿から,子どもが何を学ぼうとしているかを的確にとらえ,子どもたちの学びを相互につないだり,子どもが自ら学びを進めるために必要な支援をしたりすることであると筆者は考える。 更に,子どもの学びをどう評価するかである。第3章でも述べたとおり,子どもたちの問いや気付きを追っていくことで,個人の学習がどの程度進化したかを見取ることは可能である。しかし,子どもによってそもそもの学力に差があるため,個人内で学力に伸びがあったとしても到達点は異なる。したがって成績評価については,到達点を測る考査や課題について教師が工夫していく必要があると考える。 人と対話しながら学習する場面では,子どもたちは図書資料や教科書を「対話カード」と共に机上に並べ,それらを動かしたり組み合わせたりしながら疑問を出し合い,考えを深めていた。そして,必要なことはワークシートの裏や余白にメモをとったり,図示して説明し合ったりしていた。このような場面で「対話カード」への画一的な記述を優先することは,時として子どもの思考を止めてしまうことになるのではないかと感じた。子どもの学びを見取るために,子どもの記述は大いに参考になる。しかし,記述することが目的となってはならない。学びの過程を評価する目的は,子どもがより広く深く学ぶため,子どもの学習過程を支援することである。子どもの学習過程を支援するために,「対話カード」は子どもの学びを見取るツールとして教師の助けになると筆者は考える。 本研究で,一単元の学習の最後に必ず行った「自分との対話カード」への記入を通して,子どもは自らの学びについて,内容と学び方の双方を振り返り,気付きを得ていた。子ども自身が振り返った成果や課題を認め,励まし,更に教師がプロの視点で見取った子どもの成長や課題についての評価を子どもに返していくことで,学習内容の理解と,学ぶ力の両面で,子どもの成長を支援していくことができる。そしてこれは,教師にとっても,子どもの学びをどのように評価し,支援するべきか,改めて学中学校 図書館教育 30 ぶ機会であると筆者は考える。 子どもが自ら学ぼうとするとき,子どもの中には理解への問いが生まれているはずである。その問いを基に学び続けることで,子どもはより広く知識を獲得し,より深く理解する力を付けることができる。また,獲得した知識やそれぞれの理解を,対話を通してつなぎ,発展させ,更に学びを広げ,深める力を付けることができる。このように自らが主体となって学びを獲得し続ける力が,これからの子どもたちには必要である。そしてこの力には,子どもの中から生まれる問いが不可欠である。だからこそ教師は,子どもの中から理解への問いが生まれ続けるような学びを創出しなければならない。 この研究実践の途中で,研究協力員の一人がしみじみと言った言葉がある。「子どもがこんなに楽しそうな顔をして勉強するとは想像もしていなかった。これは本当に,やってみた人でないとわからない。図書館を使って授業してみないとわからない。」という言葉である。学校図書館で子どもが主体的に学ぶ姿は,教師の予想をはるかに超え,また,大人が心を揺さぶられるほど生き生きとしている。我々教師は,自ら考え,自ら創造し,生涯にわたって学び続けることの楽しさや大切さを子どもたちに知ってほしい,また,その力を付けてほしいと願い,日々の授業に力を注いでいるはずである。その方法の一つとして,子どもたちが夢中で追究できる学習テーマを準備し,学校図書館のもつさまざまな機能を活用した授業を展開していくことは,子どもたちに学び続ける力を付ける非常に有効な手段である。そしてそれは,我々教師にとっても,学び続けることであり,子どもと共に学ぶ楽しさを教えられる機会である。 最後に,本研究の趣旨を理解し,教育実践に取り組んでくださった,京都市立山科中学校と京都市立太秦中学校の研究協力員をはじめ両校の教職員の皆様,全面的に協力してくださった両校の学校司書の方々,快くご協力いただいた京都市図書館の皆様に感謝の意を表したい。何より,教師,学校司書など,関わる大人が皆,心を揺さぶられるほど,意欲に満ちた姿で,学ぶことの楽しさと子どもの学ぶ力を改めて教えてくれた両校の子どもたちに,心から感謝したい。 おわりに

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