道徳教育や道徳の授業での評価は評価者(教師)が子 どもの道徳的学びについて外部からラベリングした り,価値づけしたりするようなエバリューション (evaluation)評価ではなく,子どもの学びを次の教育 活動へ発展させるための情報収集としての学び診断的 な観点で論じられるアセスメント(assessment)評価で なければならないのである。(22) 自発的で内発的学びを重視する道徳教育において,外部からのラベリングから評価を始めることは効果的でないばかりか,その意義を阻害することにもなりかねない。田沼は道徳の時間の評価を,以下の枠内のようにその生徒自身の内発的動機の強化をねらいとすることと唱えた。 時には複数の道徳的価値が対立する場面にも直面す る。その際,生徒は,時と場合,場所などに応じて, 複数の道徳的価値の中から,どの価値を優先するのか の判断を迫られることになる。その際の心の葛藤や揺 れ,また選択した結果などから,道徳的諸価値への理 解が始まることもある。このようなことを通して,道 徳的諸価値が人間としてのよさを表すものであること に気付き,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念に 根ざした自己理解や他者理解,人間理解,自然理解へ とつながっていくようにすることが求められる。(20) しかしまた,このことは対立する二つ以上の内容項目について,生徒がそれぞれにどのように価値理解・深化が進んだかを,外部から見取ること・評価することは果たして可能なのかという複雑さも生じさせている。 子どもの道徳的学びを評価するという活動は,自らの 生き方の善さ,人格的成長を子ども自身が自覚し,更 に高まろうとする内発的動機を強化することに他なら ない。なぜなら,子どもの道徳的学び評価の意味はあ くまでも一個人内のプライベートな事柄に終始するか らである。そこには他者との比較も,平均化された集 団的特質理解も重要な意味をもたない。(23) そしてそのような新しい観点を評価するのに示されたのは「パフォーマンス評価」と「ポートフォリオ評価」である。「パフォーマンス評価」とは学習活動の中での知識やスキルを使いこなす(活用する)ことを求めるような評価方法であり,「ポートフォリオ評価」とは,できた項目を積み重ねていくことによる加点形式の評価方法である。平成26年10月に中央教育審議会が出した「道徳に係る教育課程の改善等について(答申)」の中に「評価に当たっての基本的な考え方」として,以下のように記述された。 道徳性の評価に当たっては,指導のねらいや内容に照 らし,児童生徒の学習状況を把握するために,児童生 徒の作文やノート,質問紙,発言や行動の観察,面接 など,様々な方法で資料等を収集することになる。そ の上で,例えば,指導のねらいに即した観点による評 価,学習活動における表現や態度などの観察による評 価(「パフォーマンス評価」など),学習の過程や成 果などの記録の積み上げによる評価(「ポートフォリ オ評価」など)のほか,児童生徒の自己評価など多種 多様な方法の中から適切な方法を用いて評価を行い, 課題を明確にして指導の充実を図ることが望まれる。 (24) は価値の序列化や混乱を避けるために単一の内容項目を考えさせることが望ましいとされてきた。しかし,今回の改正ではそこから一歩踏み込み,より現実世界での問題解決能力を見据えた道徳的実践力を目指したといえよう。物語の読み取りから現実にある問題の解決能力の育みへと試行した結果といえる。そのことが顕著に表れたのが,モラルジレンマ教材を念頭に置いたと思われる,今回一部改正された「新学習指導要領解説」の以下の部分である。 (3)誰が,どのように評価すべきか ではそのように複雑化した道徳の時間の評価を,教師はどのようにとらえ,実際に行うべきであろうか。それについて筆者は,まず初期の評価者を教師ではなく,生徒に設定するべきであると考える。なぜなら,道徳的理解がその生徒自身の内面的理解を問うものであるならば,その生徒自身の自己理解の評価を,判断の出発点にするべきととらえるからである。これは「新学習指導要領一部改正」の中で,道徳の評価が「個人内の成長の過程を重視すべき」「個人内評価として行う」(21)と記述されたことからも有効であると考えられる。つまり生徒の道徳性を,他者との比較や相対化によって序列や優劣の評価をするのではなく,その生徒一人一人が,明確な観点をもって自らの道徳的学びをどれだけ深化できたかを振り返り,生徒個々の道徳的成長を把握・促進する評価を目指すべきと考える。 田沼は道徳の時間の評価の視点として,次の学びへの発展的視野を含んだアセスメント評価を,中学校 道徳教育 7 以下の枠内のように提唱した。
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