001総教C030705H27最終稿(中山)
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それぞれの時間における指導のねらいとの関わりに おいて,生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子を 様々な方法でとらえ,それによって自らの指導を評価 するとともに,指導方法などの改善に努めることが大 切である。(12) それに対し,生徒の道徳の時間の受け取りを評価する「生徒の学習状況の評価」については,これまで明確にその評価の形を伝えることはされてこなかった。なぜなら,第1節の(3)でも述べたとおり,道徳の授業を評価することは大変困難であるとされてきたからである。 第2節 学習指導要領一部改正が目指すもの (1)道徳の評価が難しいとされた二つの点 ◆「道徳性」への受け止めの混乱がある点 これは,道徳科の評価を行わないとしているのではな い。道徳科において養うべき道徳性は,極めて多様な 児童生徒の人格の全体に関わるものであり,数値など による評価を行うことは適切ではないことを特に明記 したものである。(10) このことによって,道徳の評価に対して,「行わなくてもよい」とする姿勢ではなく,その評価には単純化を避けるため数値を用いないが,多様な表現が可能である文言によって,評価を行うことが示されたわけである。 道徳性は人格全体にかかわり,人間性そのものを規定 するものであり,その上,内面的なものであるので把 握が困難である。評価をすることで,人間としての値 踏みをするような錯覚さえ起こりうるのではないか と思われる。ましてや,様々な人や物事とかかわって 一生をかけてはぐくんでいくものであるその道徳性 の評価を,1時間の道徳の時間の中で行うことについ ては,慎重にならざるを得ない。(14) だからこそ,今回の改正で,道徳の時間で評価するのは人間性に係る「道徳性」そのものではないと示す必要があった。そしてそのために,「学習状況」の文言が追加され,道徳の評価の対象が「その授業時間内での変化」についてであることを明確にされたのが次ページに示す部分である。 道徳教育の評価についても,生徒自身による自己評価 を生かして新たな目標への努力を支援するとともに, 生徒の道徳的な良さや道徳的成長に対する共感的な理 解に基づいて指導計画や指導方法を評価し,その結果 を指導の改善に生かしていくことが求められる。(11) 今回の一部改正にもこの考えは引き継がれ,より踏み込んで記述が追加された。右上に示す部分は,上記の部分の前に付け加えられた,教師が自身の授業を評価することに言及した部分である。 ここでは「確かな生徒理解に基づく道徳性の評価を心掛ける」とはっきり明記されている。やはり,正しく評価をすることを心掛けることは,生徒を正しく理解しようという姿勢を生み出すわけであるから,評価に対して積極的に取り組むべきことを明記したことは重要である。更に混乱を避けるため,新しく学習指導要領の解説では以下の文が書き加えられた。 (4)道徳の時間における二種類の評価 また評価の実施に当たって,ここでは二種類の評価が語られていることも把握する必要がある。いわゆる,道徳の授業で生徒自身がどのように変容したかを生徒に示す「学習状況の評価」と,道徳の授業が効果的に行われたかを検証し,教師が道徳の授業力を高める資料とする「指導の評価」である。道徳の評価に対する多くの批判的な意見は,この二種類の評価を混同することによって生じている。 この二種類の評価のうち,「指導の評価」についてはこれまでも積極的に取り上げられてきた。以下に示した記述は,現行の「中学校学習指導要領解説」の「指導の評価」について言及している部分であり,そこからは,評価の一つは教師がその日の道徳の授業がどうであったかという振り返りを示すという面が読み取れる。 中学校 道徳教育 5 道徳の時間の評価が困難とされたのは,現行の学習指導要領で「生徒の道徳性については,常にその実態を把握して指導に生かすように努める必要がある」(13)と記述されたことが大きい。つまり現行の学習指導要領では「道徳性」という,その生徒の人間性自体ととれるものを対象としたことで,そこに教師が優劣などの評価を下すのではないかと疑念が生じて,道徳の時間の評価を行うことに困難が生じたのである。元来,「生徒の道徳性は人格の全体にかかわるもの」という認識があり,そのような生徒の「道徳性」を評価することは,その評価対象である生徒の人格を否定することにもつながりかねないとする考え方が存在する。田中が主張する,道徳に評価がなじまないとする意見を下の枠に示す。

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