生徒の道徳性については,常にその実態を把握して指 導に生かすように努める必要がある。ただし,道徳の 時間に関しては数値などによる評価は行わないもの とする。(7) ここでは「数値などによる評価は行わない」と記され,評価を行うこと自体については否定していない。しかし,その文言について「数値などによる」という部分だけではなく,「道徳の時間では評価自体を行わない」とする解釈まで出てきた。岡本は道徳の評価について,次のような考えを主張した。 評価については,文章で記述するための記録欄を指導 要録に設けるとした。評価の導入により,子ども一人 ひとりの価値観や心情の良し悪しを規定することに なる。子どもの思い・心情はたとえ記述式であったと しても一定の基準等によって評価できるものではな い。思想・信条の自由や精神的な自由を保障する子ど もの権利の観点からも,道徳教育に評価はなじまな い。(8) しかし本来,道徳の評価については行うことが規定されていたのであり,現行の「中学校学習指導要領 解説」の中でも「第2節 道徳性の理解と評価」の「1 評価の基本態度」にも以下のように明記されている。 生徒の道徳性については,道徳教育の目標や内容に照 らして,どの程度成長したかを明らかにすることが大 切である。そのためには指導前や指導後の生徒の実態 の把握に努め,確かな生徒理解に基づく道徳性の評価 を心掛ける必要がある。(9) その遠因となる困りが散見する。年度初めに道徳計画が綿密に練られていない状況や,教材の研究不足からねらいに迫れなかった状況,そのことで,評価自体に自信をもって臨めない状況などが考えられる。そして,それら道徳の時間での困りは,相互に関係し合い,負の連鎖を発生させているように考える。 このような状況は文部科学省による「道徳教育推進状況調査結果」からも読み取れる。前回までの調査には含まれなかったが,平成24年度調査から「道徳教育の実施状況の課題」という調査項目で,「貴校において,道徳教育を実施する上での課題としてどのようなことが考えられますか」という質問が追加された。これをグラフ化したものを以下の図1-6に示す。 このグラフから道徳教育を実施する上で,ほぼ4割近くの教師が困りを感じている項目は,三点存在することが確認できる。「適切な教材の入手が難しい」(37.3%),「効果的な指導方法が分からない」(38.9%),「指導の効果を把握することが困難」(42.7%)がそれである。そして,それは先ほど懸念された,学校現場で道徳の授業が十分に行われていない状況につながっていると考えられる。 しかも,これらの解決を図りながら,繁忙きわまる現場へ円滑に導入する場合,教師の道徳教育の指導力育成の過程をOJTの視点に立ち,日常の授業の実施と並行して行うシステムが求められる。道徳の授業をきちんと行いながら,教材研究・改善と授業力向上が果たされる。これからは,そのような取組が必要となってくる。 (3)求められている道徳の時間の評価 図1-6で示したように,道徳教育を実施する上中学校 道徳教育 4 で,もっとも多くの教師が課題であると感じている項目は,「指導の効果を把握することが困難である」という困りである。そしてこれは今回の学習指導要領改正において,解決すべき課題としてとらえられているものでもある。つまり,いくら改正された中学校学習指導要領で新たに「指導成果を見据えた評価」を求めようにも,多くの教師が「指導の効果を把握することが困難である」と感じているのが現状なのである。効果を把握できていなければ,当然その先にある評価にもたどり着くことができない。ならば,評価につなげるためにも「指導の効果を把握できる手立て」の確立が急務であることがわかる。そこで,道徳の時間の評価について,現行の学習指導要領(平成20年度版)では以下のように記述されている。 図1-6 貴校において,道徳教育を実施する上での課題としてどのようなことが考えられますか(6)
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