平成26年10月21日に,中央教育審議会答申「道徳にかかわる教育課程の改善等について」が公示され,それを受けて,平成27年3月27日には中学校学習指導要領の一部が改正された。これで,以前より検討されてきた道徳の教科化がついに動き出し,これまでの「道徳の時間」は平成29年度から「道徳科」「特別の教科 道徳」に格上げされることとなった。 今回,この「特別の教科 道徳」への移行を「格上げ」と表現するのには,相応の理由がある。それは道徳が今までの「領域」という区分から「教科」という文言になったというだけの単純なことではない。今回の「教科化」は,これからの道徳教育が実践力をもった心の教育の充実に向け,どのように具体的に進んでいくかの指標を示す意味ももっているのである。 それはすなわち,「良質な道徳教材・資料の確保」と「それに伴う計画に基づいた時間確保」ならびに「ねらいや教育効果を踏まえ,指導成果を見据えた評価の実施」という三つの柱の正式な導入である。そしてこの三つの柱の中でも,特に「ねらいや教育効果を踏まえ,指導成果を見据えた評価の実施」については,最重要項目であり,様々な議論や慎重な検証と運用が求められる。 道徳がまぎれもなく「教育活動」である以上,そこには明確な指導成果をねらいにもった,授業の設計が求められる。そして,その効果をはかる振り返りと結果の検証が行われるべきであると考える。 しかし,教育現場には道徳に対して「道徳とは心の教育だから,そこでの学びを評価の対象とするべきではない」といった,評価に対して否定的な見方や,「何を根拠(評価基準)にどう評価したらいいか(方法)がわからない」などの困りが散見され,それを理由に,指導成果の見取りとしての評価がなおざりになってないかという懸念が存在する。 そこで,本研究では評価の実施に当たり,判断基準としての生徒自身の理解の深度を測るため,道徳の授業ごとに生徒による自己評価を実施・記録することを考えた。そしてそれを有効活用することによって,道徳教育を運用するシステムにPDCA(Plan:企画立案→Do:実践→Check:成果・結果評価 →Action:改善策実施)にR(Research:実態調査・診断)を加えた形R-PDCAサイクルの構中学校 道徳教育 1 築ができないかと考えた。つまり,道徳の時間の中心に生徒による自己評価を据えることで,全ての運用システムに関連性・継続性・発展性を生み出せるのではないかと考案したわけである。 またこのようなR-PDCAサイクルの機能を活用することで運用の検証・改善が繰り返され,先の「良質な道徳教材・資料の確保」と「それに伴う計画に基づいた時間確保」の二つの柱についてもさらなる向上が見込めると予測される。なぜなら,よりよい教材の精選や,従来の道徳資料分析・研究の前進には,客観的で具体的な評価が不可欠と考えるからである。 そしてそれとともに,生徒による自己評価を,普段からの生徒理解と関連付け,最終的にはそれを活かした「年間を通しての道徳評価」につなげることはできないかと考えた。 以上のことから,本研究の1年次は,文言による評価への発展も視野に入れた「生徒による自己評価を活用した道徳教育運用システムの構築」について研究し,並行して,新たに様々な道徳の取組における効果も検証する。 第1章では,ここまでの道徳教育を取り巻く状況の調査結果分析と課題,及び,道徳教育に評価を導入する重要性について述べる。その上で,生徒たちの道徳的内容項目についての学びを見取る「道徳での評価」の考え方について整理する。 第2章では, 道徳の授業の評価につながる生徒による自己評価を考案し,それをもとに構築した道徳の時間の運用システムを提案する。また,それを踏まえた「持ち回り道徳」への活用と,大きな区切りごとに行う道徳の授業に対しての振り返りとについて構想する。 第3章では,そのシステムに基づいて,道徳の授業での,生徒による自己評価とその分析を行い,道徳の授業に対する教師の意識調査をもとに,教師間の困りとその解決に,この研究のシステムがどれほど有効かを実践する。また,この研究が,OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の手法を取り入れた普段の道徳の授業の授業力向上に与える効果を探り,検証する。 第4章では,道徳教育のさらなる充実に向けて,効率化された運用システムの実施に伴う教師の意識変化について調査した結果をまとめ,分析と考察を加える。そして,教材作成での効果と,本研究を通して明確になった課題を洗い出し,それを「生徒による自己評価」を軸にどのように解消するかの計画を提示し,まとめとする。 はじめに
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