中学校 道徳教育 27 図4-2 A中学校 道徳に対する印象 比較 この調査において教師の印象で最も好転したのが「子どもが好きな授業である」の項目で,評価値が3.6から4.1まで最も顕著に上昇している。これは生徒による自己評価の記録から,多くの生徒が道徳の授業に肯定的,能動的に取り組んでいることを実感できたからだと思われる。また他にも「指導の工夫が多様に考えられる」が向上したのは,持ち回り道徳でそれぞれが教材研究と正面から向き合うことで,道徳教育の指導についての面白さに気付くことができたと思われる。 しかしながら,懸念材料がないわけではない。研究前から研究後に数値が下がっている項目に,「教師のやりがいがある授業である」「いじめや非行の防止に役立つ」「学力の向上に効果がある」の項目がある。しかもこれらの項目については,今回の学習指導要領改訂の際に重視されたポイントでもあり,これらの教師側の実感が低下していることは大きな危機感をもって受け止めなければならない。中でも特に「いじめや非行の防止」と「学力の向上」については,道徳の授業の実施によって伸長が期待される「生命の尊重」や「自尊感情」に係る項目であるため重要である。「かけがえのない自分や他人を大切にする」意識が育つことで,他者へのいじめを思いとどまり,自らの学力の向上に意識が高まる結果が生まれるのではないだろうか。そしてそれらの効果が漫然と道徳の授業を行うことで発露されることはない。 また「道徳教育は漢方薬である」と語られるように,道徳教育に即効性を求めるべきではない。上記の教師の意識も,今年度の研究取組を着実に積み重ね,教師自身が確かなそれらのねらいをもって授業を行うことで,効果の実感につながると思われる。 第2節 B中学校での実践研究で見えたこと (1) 学び合いに向けての取組 B中学校では道徳的諸価値と出会う段階を1年生で終え,2年生では学び,議論する道徳や,多様な価値観に触れて,自己の価値基準を検証,とらえ直しをする段階に入ったといえる。特に今回の新指導要領改訂で「考え,議論する道徳」という言葉が打ち出された。従来の道徳の授業でよく扱われたのは,「読み物資料なのか,映像資料なのか」という区分けであり,「どのような教材を使うのか」を議論することが多かったが,今後は生徒の活動に注目して,「一斉授業の形態で取られる教授形式な のか,それとも図 4-3に見られるよう な学び合い=アクテ ィブラーニング形式 なのか」という点が 議論されていくと予 想される。 図4-3 学び合いの形態 中学校現場で道徳への取組が低迷するケースとしては,教師が道徳の授業について道徳的諸価値を注入する時間だととらえ,中学生の理解力では既に獲得している道徳的諸価値に対して,繰り返し訴えるという失敗がある。多くの教師は道徳的諸価値について,きちんと行動化できない生徒たちを見てそれを理解できていないと判断してしまいがちである。だが,先述のとおり,中学生段階では思春期がはじまり,既成の概念や判断基準について,自らのこれまでの経験則に照らして,「それが真実であるのか,正しいのか」というとらえ直しが行われる。そのことを踏まえずに授業を行えば,生徒の実態から乖離し,心に響かない授業となってしまう。 よって,教師は生徒の中で眠る,もしくは出口が見つからずにさまよっている道徳性に対して,発露の糸口を示す授業づくりを心掛けるべきであろう。教材は考えるべき道徳的諸価値についての一側面を提示し,その受け止めや新しい視点については生徒同士の協議で獲得させる仕掛けを考
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