アル」が4.05であったのを筆頭に,同じく読み物だけであった「バンクーバー朝日軍」が4.12,動画を使わなかった「あなたのライバル」が4.12など,映像資料を使用した道徳教材に比べ,低い評価点となった。 もちろん,ビデオ映像を使った教材設計を批判しているわけではない。物語としてきちんと練られ,状況を単純化し,視聴者に理解しやすく構成されているビデオ教材は,生徒たちの興味・関心をより高めることに貢献し,道徳に対して前向きに取り組む助けとなっていることは間違いない。 しかしながら懸念されるのは,ビデオ教材は容易に理解ができるがゆえに,考えを深めるまでに至らない状況も存在するということである。また道徳的実践力は,ただ深く考えるだけでなく,今までの概念にない新しい価値に出会い,「なぜそのように考えられるのか」という問いやとらえ直しから生まれることが多い。他生徒との意見や考え方の交換,教材の状況を生徒自身の経験則から複雑な現実世界の状況に置き換えて,それでも実践できるのかという葛藤や検証から到達した道徳的諸価値の肯定が,より高次の確固とした道徳性を生み出すのではないだろうか。 そのことを踏まえれば,生徒による自己評価の平均値が高いからと,道徳の授業でビデオ教材に依存していくことは危険であり,有効な学びができているとは必ずしもいえないことがわかる。このように生徒による自己評価は,その生徒自身の成熟度に左右される要素もあるので,先述したように,出てきた値をそのまま絶対視せず,その生徒たちの道徳性がどの段階に到達しているのかを見極め,単独の視点で判断しないことが重要なのである。 (2) 教師の受け止めの追跡調査 A中学校の研究協力員は今回の研究を踏まえて,評価の入力を始めてから,学年の教師の中で道徳の授業についての話題が職員室で増え始めたと感じている。特に持ち回り道徳の導入では,道徳教育の指導をより向上していきたいという刺激を学年の教師へ与える結果になっていると感じている。確認のため,A中学校での教職員に関しては研究協力開始時と研究協力終了後でどのように意識が変わったか,追跡調査を行った。結果,研究協力開始時期には「道徳が十分に行われていない」理由に挙げられていたほとんどの項目で,数値は減少した。研究前後の具体的な推移を図4-1図4-1 A中学校 道徳が不十分な理由 追跡 中学校 道徳教育 26 にまとめて以下に示す。 具体的には「指導の仕方が難しい」が4人から0人に減少,「指導が形式化して魅力が少ない」 も3人から1人に減少したことを筆頭に,「道徳の目標や意義の理解が不十分」が2人から1人に,「どう役立っているのかつかみにくい」も4人から3人に減少した。 このことから,今回の研究で道徳の授業での生徒による自己評価を行うことで,道徳の指導の効果を把握しやすくなり,教師が自信をもって指導に入ることができたのではないかと分析される。特に一時期に集中して道徳の授業づくりの教材研究を行えた「持ち回り授業」の取組が,指導の仕方の習得,魅力ある授業づくりに効果を与えたことが見て取れる。また,生徒による自己評価の記録が「どう役立っているか」の実感を生み出したとも考えられる。 しかしながら,変化のなかった項目もある。「忙しくて他の指導に授業が取られる」「魅力ある教材や資料が少ない」の二項目がそれである。ただし,今現在は魅力ある教材を確保し始めた過渡期であることから,まだ成果を実感するには至ってないと考えられる。 また同時に取っていたアンケートに「道徳の指導に対する印象」について五段階で評価したものがある。その評価の平均を数値化し,研究前と研究後で,教師の道徳の指導への印象がどう変化したかを比較のグラフとしたものを,次ページに図4-2として示す。
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