授業が停滞した二つの発問 ・導入の「得な生き方」を考えた発問 ・登場人物の喜びを資料から探させた発問 こうして変更を加えた指導案の指導過程を図 中学校 道徳教育 23 業では平均4.40の評価が出るクラスとしては,クラス平均は4.21という低い値であった。しかも資料自体の評価が4.33もあることに対して,他の項目は,より低い評価が出ており,今回の授業では,授業の組立てが教材・資料の良さを生かし切れていないという生徒の受け止めが読み取れる。 また個々の生徒の評価に目を移すと,ある生徒が最初の三項目に「2」以下の低い評価を出しており,これも他の日の道徳の授業では見られなかったことから,ここに改善すべきポイントが存在することがわかる。 尺度の中で「教材・資料がよい」の評価平均値は高いのに,「深く考えること」や「これからの自分について考えること」の評価平均値が低い教材・資料については,導入や発問の迫り方が甘かったと結論付けられる。そこで,その点の変更を視野に入れ,授業後に研究協力員と協議し,活動が停滞した発問が二つあったことを確認した。以下の枠内にまとめる。 3-7として示す。 ア イ 図の中で,□の枠で囲って示した部分は,授業図3-7 「国境なき医師団」指導案 変更後 B中学校 の組立ての手直しを行った箇所である。 まず初めに「ア」で示した部分で,活動が停滞した導入部分について,この時期の生徒はプラスの視点に関わることを探すのは不得手であり,意見が出にくいという生徒理解の反省点に立ち,マイナスの視点を挙げる発問に変更することとした。つまり,「どんな生き方が得な生き方か」を問うより「どんな生き方が損な生き方か」を考えさせることで,より活発に意見交換が行われるだろうと修正したわけである。 次に「イ」で示した部分のように,停滞した「資料からの事実の読み取りになってしまった発問」を,資料から答えを探すのではなく,資料を踏まえて発想させる発問に変更した。つまり,「どんな場面で喜びを感じていたか」とした発問から,資料内には直接語られていない「貫戸さんが受け取った『人生の宝物』は何だったのでしょう」と問いかけを変更することで,その発問を生徒が考えるときに,登場人物が置かれた立場に我が身を置き換え,より没入して考えさせることをねらったわけである。 また,各クラスを巡回して参観した印象で,学び合いのタイミングや数直線の扱いなどにクラス間で差が生じていたので,スムーズな学び合いに当たっての細かな段取りがあった方が良いと考え,追加したものを○の枠で示した。こうしたことで,「学び合い」のノウハウも蓄積することが可能になっている。 このように,「指導の評価」の視点で生徒による自己評価の記録を検証することで,主観のみに 頼らない,客観的な視点に立った判断ができるようになった。そして,行われた道徳の授業の改善点がより具体的に示され,次年度へ,より良質な授業設計に基づいた指導案を蓄積できることとなった。 (3)「生徒による自己評価」の詳細な活用 最後に,生徒による自己評価から個々の生徒の変化を見取る実践と,それを文言による評価につなげる試行例を示す。 従来では19ページの図3-2のような形で記録された分析表の,横軸(図3-2のA)をたどって生徒の変化を見取る。B中学校ではここまで順調に道徳の授業が行われてきた。そのうち,研究実践期間に行われたうちの19時間を対象にしたが,その中から例を挙げるに当たり,様々な生徒に対応が可能であることを示すため,タイプの違う2名
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