001総教C030705H27最終稿(中山)
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図3-6 「国境なき医師団」の尺度評価 B中学校 徳の授業が毎週,意欲をもって運用される体制づくりが必要であり,今回の研究のもう一つの活用目標でもある。 また,B中学校の教師間では,道徳の授業が十分には行われていないと考える理由に「どう役立っているのかつかみにくい」「指導の仕方が難しい」「指導が形式化して魅力が少ない」という三つの回答は全く上がっていない。このことから,B中学校では教師が道徳の授業に手ごたえを感じて取り組めていることがわかる。尺度の判定について結果が伴い,道徳の授業に対して自信を深めている結果と考える。 次項では一つの授業を取り上げ,具体的な授業改善について,生徒による自己評価をどのように活用し,改善につなげたかを検証したい。 (2)授業改善の取組 具体例として挙げるのは筆者が自作し,研究協力校で実施した「国境なき医師団 貫戸朋子」の授業である。事前に作成した指導案の指導過程を以下に図3-5として示す。 貫戸朋子は国境なき医師団に参加した初の日本人医師である。彼女が出身校を訪れて道徳の授業を行った記録(31)をもとに授業を構成したが,その際に本人がディベートのテーマとして行った「貫戸朋子の生き方は損か得か」という発問を生中学校 道徳教育 22 図3-5 「国境なき医師団」指導案 変更前 B中学校 かしたいと考えた。 中学生の時期は「理想」と「現実」に対して,行動選択が大きく「現実」的なものを求める傾向に傾く。これは社会の中で生きていくことを想定した上での判断力が成長した結果ともいえるので,決して悪いこととはいえない。しかし,現実主義が,即物的つまり物質的なものや金銭・利害等を重視する考えと同義だと思い,「お金を得られないことは損である」と短絡的に考える生徒は少なくない。よって,今回の貫戸朋子の生き方を「崇高ではあるが,生き方としては損である,自分はしたくない」と多くの生徒はとらえると想定される。 そこであえて一般的には「損」と考えがちな「国境なき医師団への参加」という生き方を提示し,「本当に崇高な生き方は損な生き方なのか」について深めたいと考えた。 しかし,授業の結果としては導入の「得な人生」を挙げる生徒の反応は鈍く,今回の授業で打ち崩そうとした,即物的な価値観を想定させることが難しかった。また学び合いを設定した場面でも,資料の中から答えを探させる発問であったために意見交流がはかどらず,消化不良な授業となってしまった。当日の記録が以下の図3-6となる。 尺度評価から見てとれるのは,普段の道徳の授

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