以下の図2-8は学期ごとに振り返りを行っているワークシートの例である。 図2-8のワークシートでは,学期末や学年末などの時期に,実施した全ての道徳の授業の内容についてまとめたものを生徒に提示し,もう一度印象に残った,心に刻まれた,考えた道徳の授業を挙げさせている。このように,生徒自身が最も豊かな学びができたと思う道徳の授業を,節目ごとに振り返ることは重要である。授業ごとに尺度化した数値は,そのときの瞬間的な沸点である側面も踏まえて,両面から道徳の授業の成果に迫ることが望ましいからである。その上でポートフォリオ評価によって蓄積されたワークシートから,その生徒の学びの詳細を読み取り,文言による評価につなげることで,より生徒自身の実感に沿った評価が可能になると予想される。 具体的には図2-8のワークシートを活用して生徒が最も良い学びができたとして挙げられた教材・資料と,13ページの図2-5で示した分析表などから,毎時間の道徳の時間での自己評価の蓄積を比較し,その生徒の受け止めで高評価を得た教材や,その生徒の道徳性の理解に注目すべき道徳の授業を抽出する。その上でもう一度蓄積されたワークシートの中の記述から,そのときの生徒の受け止めを確認するのである。そして,より高次の道徳性に昇華するよう,その成果を認め,励み中学校 道徳教育 18 (27)前掲(10) p.17 (28)前掲(24) p.15 (29)前掲(7) p.114 (30)「第7回道徳教育専門部会(平成26年7月17日)における主な意見」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/049/siryo/attach/1350833.htm 2016.3.4 になるように配慮された評価を行う。結果,評価者と被評価者が納得し,前向きに受け止められる文言評価が可能になるのではないかと考える。 以上のことを研究仮説として,実践に入る。 前章で,生徒による自己評価を軸とした道徳教育の評価システムを提示したが,本章では具体的な運用とそれに伴う効果とその把握について,研究実践からいくつか整理・例示していく。その上で,道徳教育への取組の段階が異なる2校の研究協力校での実際の運用を通して,様々な生徒や教師の意識の変化を見ることができた。 第1節 発展初期のA中学校における実践 (1)現状と教師アンケートの分析 A中学校は1学年6クラスの中規模校で,今回の研究協力対象学年は1年生である。また近年,A中学校は道徳教育に力を入れて取り組み始めた学校で,道徳教材の蓄積はまだ不足がちながら,道徳教育に対して意欲をもって取り組もうとする教師が牽引役となり,優秀な教材を収集している過程である。このような状況であるが,毎週の道徳の教材は道徳係から提案することになっており,教材選定に全ての教師が関わっているわけではない。他の多くの中学校にも見られるが,限られた担当に道徳教材の開発について,負担が集中している状況である。 しかし,道徳の教科化が決まった今後は,一部の教師だけが意識するのではなく,全ての教師が道徳の教材選定,授業展開の研究,ねらいをもったワークシートの工夫をできるようにならねばならない。そこで,A中学校の教師の意識を把握するために,「自校で道徳の時間が十分には行われていない」と感じる理由について調査を行い,得図2-8 一年間の道徳の授業 振り返りシート例 第3章 「生徒による自己評価」を軸とした運用システムの実践
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