「持ち回り道徳」の利点とは ・教師の授業指導力の向上 ・良質な道徳教材の蓄積 ・教材準備担当者の負担軽減 ・生徒が多様な視点に触れる機会の提供 まず一点目は授業指導力の向上である。通常,中学校の教師は担当した学年を持ち上がるケースが多い。そうすると,一度行った道徳の授業を次に行う機会は三年後という場合が多くなる。その結果,授業の改善点に気付くことができても,すぐに取り入れることができず,なかなか授業改善に繋がらない。その点,持ち回り道徳では,担当教師として同じ教材で数回授業ができるので,授業展開などを吟味し,より適切な授業展開を考えられることができる。また,担任するクラス以外で道徳の授業をすることで,教材や生徒への新たな視点へ気付きが生まれ,教師の道徳の授業についての指導力がより一層磨かれることとなる。 「尺度で表す評価」と聞くと一見無機質で,冷たいように感じることもあるが,数値の目標ができることで,具体的な指針が生まれ,教師自身のモチベーションの維持が図れると考える。 (5)持ち回り道徳の取組と活用 自己評価を活用する例として,「持ち回り道徳」との連携について紹介する。まず,「持ち回り道徳」は,「ローテーション道徳」とも称され,教師の道徳の授業の指導力向上と不足がちである道徳の教材確保という二点の解消をねらって,様々な中学校で導入されている。利点は多く,道徳の授業の質の向上や,教師の負担軽減など一石何鳥もの効果が期待できる。 形式としては,各学年の教師陣が一人一教材を選び,その学年の全クラスを回って授業をする。例えば一人の教師が教材「風の中のライオン」を選んで教材研究をすすめ,指導案を作成する。1週目は1組,次の週は2組,その次の週は3組という形で各クラスを回って授業を行う。その際には,持ち回りで授業を担当する教師も担任だけではなく,副担任も一教材を担当する方がねらう効果も高い。その構造を図式化したものを図2-6に,ローテーションの例を下の表2-1に示す。 図2-6 道徳の持ち回り授業 構造図 表2-1 道徳の持ち回り授業 ローテーション表例 A先生 B先生 C先生 D先生 E先生 F先生 1週 1組 2組 2週 2組 3組 3週 3組 1組 ※網掛けは参観を示す 3組 1組 2組 1組 1組 2組 2組 1組 2組 3組 3組 3組 中学校 道徳教育 15 道徳の授業は,基本的には学級担任がすることが一般的である。その理由は,生徒の実態を一番理解しているのが,その学級の担任とされるからである。しかし,学級担任が自クラスのほとんどの教科を担当する小学校と違い,教科担任制をとる中学校現場では,一つのクラスに対して,それぞれの教科を複数の教師が担当して授業を行うため,学年担当全員で全クラスを見るという感覚が強い。逆にいえば,絶対に担任でなければならない必然性は中学校現場では低いのである。 しかも,担任のみが道徳の授業を行う従来のシステムであれば,副担任はほとんど道徳の授業をしないこととなる。これでは,学校全体として道徳の授業への関心が薄くなっていく要因となってしまう。だが,そこで道徳の授業に対して温度差が生じることは,生徒にとってもまた学校で道徳教育を推進する際にも好ましくない。そこで授業者に副担任も含むことで,副担任にも道徳教育推進者の自覚を喚起することをねらうわけである。 具体的な利点を以下の枠内に四点で示して,順に論じたい。 また,普段であれば授業担当者としての視点でしか見られない道徳の授業を,副担任も担当に含むことで参観の機会が生じ,他の授業者の道徳の授業から学ぶ機会を得ることができる。ねらいへのアプローチの違いなど,巧みな授業者から研修するチャンスができることで,道徳の授業の指導力はより向上することとなると予想される。
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