度合い分析の継続記録から読み取れるもの ・授業ごとの生徒一人一人の受け止めと変遷 ・クラス単位での授業の受け止め ・クラスごとの傾向の把握 ・その道徳教材の評価参考点 ・道徳の授業の年間計画の改善点 ・その道徳の授業設計の改善点 まず見えてくるのが,その道徳の授業での生徒たちの受け止め(図2-5のA)である。その授業がその生徒にとってどうであったが,学びに役立ったかを見る,最も基本の数値になる。 中でも特に自己評価の継続記録によって読み取れるものを以下の枠内にまとめ,順に論じたい。 またこの表では入力した数値によって自動でセルが着色されるように設定した。「5」を大きな効果ありの安全圏として青色,「4」を道徳の授業によって何らかの効果は必ず出る,という基準地としての判断で無色,「3」はあまり可否の影響がないとして注意喚起の黄色,「2」と「1」に関しては効果を与えられなかったとして,「2」をピンク,「1」に警告色の赤色を着色した。このように着色することで,一目見て視覚的にその日の道徳の成果がわかるようになった。また,年間を通してもその生徒の変化したポイントや注目点が見つけ出しやすくなった。 このように,行った作業の反応がすぐに示されることは重要である。例えば,授業者は入力しながらすぐに「この生徒はあまり授業のねらいの受け止めが出来なかったと感じている。何らかの要因はなかっただろうか」など迅速な生徒理解やカウンセリングの検討に着手できるのである。 また横軸に目を転ずると,長いスパンでの生徒の変化を見取る(図2-5のB)ことにもつながることがわかる。「度合い分析」を継続的に取り組み,毎回の尺度の入力・分析をすることで得られる効果として,その生徒の道徳性の長期的な変遷の把握や,大きく道徳性が向上した道徳の時間はいつだったのかという把握も期待される。少なくとも,一年間の記録を見直すことによって,その生徒の道徳的学びが高まった授業のピックアップは可能であり,年間を振り返っての評価にもつなげやすくなると考えられる。 次に見えてくるのが,クラス単位での縦軸でのまとまりを集計したもので,その日の道徳の授業に対してのクラスでの受け止め(図2-5のC)となる。そのクラスの受け止めの集計を出すことに中学校 道徳教育 14 よって,その日,その教室で行われた道徳の授業が効果的であったか,クラスとして道徳的価値の学びが成功したのかを授業者は見取ることができる。ただし,このクラスの達成度の取扱いには注意が必要で,決してその授業を実施した教師の力量の判定などに使うべきではない。なぜなら,この尺度はクラスの傾向によって上下し,授業者の優劣を判定する資料としては不適切だからである。しかしながら前述のように,クラスの傾向を把握する資料としては非常に有効である。 つまり,そのクラス達成度である図2-5のCを更に縦軸で比較すると,クラスごとの傾向の把握として活用できる。そのクラスがどのような内容項目に対して意識が高く,またどの項目の受け止めが深まらなかったのか。それらのクラスの傾向を他クラスとの比較で見えてくると予想される。 また,これは例えば図の2-5のDのように横軸を比較することで教材提供の成否を見取ることも可能になると思われる。つまり,全てのクラスの点を集計し,平均として出したものをその教材の最終の評価参考点(図2-5のD)として活用するのである。例えば,生徒からの自己評価として平均値が低いものは,その時期の道徳的学びに適しているとはいえず,次年度の年間計画では授業設計の再検討や教材の差し替えなども含めた改善の対象となり, 毎年,道徳の年間計画がよりよい状態に保たれる原動力となるわけである。 例えば,「新たな発見はあったか」の平均値が低く,「教材資料は心に響いたか」が高い場合は実施する時期が適当でなかったとも思われる。その場合は実施時期の検討がなされ,より適した時期に教材を使用することとなる。また「考えるところがあったか」や「共感・感動するところがあったか」の平均値が低く,「教材資料」の評価項目が高い場合は,ワークシートの中心発問などの迫り方などが不十分だったと思われ,授業プランの見直しが必要となる。 また教師にとっても,その授業評価の把握は高い仕事水準へのモチベーションにつながることは確かである。生徒の自己評価の継続記録をすることで,「自分の研究・提示した教材・資料に対する受け止めが高い評価だった,良かった」「自分のクラスの自己評価から読み取れる受け止めが隣のクラスより低かった」など,道徳の授業の出来などに関わる会話が職員室で活発に行われるようになり,次の道徳の指導をがんばろうという,意欲向上の役割も果たすと予想される。
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