尺度による評価で注意するべきこと ・生徒が出した尺度の数値を単独で絶対視するべきで はないということ ・尺度の評価は記述による振り返りと合わせて判断す ること ・生徒が出した尺度の数値は「個人内評価」として, 他者との優劣などには使用できないこと 身の個人内評価であるため,他の生徒との相対化はできず,ここで出た結果をそのまま道徳性の数値評価には結びつけることは適切でない。 数値は非常に具体的ではあるが,その事項は単純化され,その評価の根拠となる考えまでは示されていない。しかしながら,道徳では「なぜそう考えたのか」を深めることこそが最重要事項であり,注視するべきポイントだと考える。 数値を単独で扱うべきでないのは,これらの自己評価が「個人内評価」であるという点でもある。生徒の実感に由来した道徳的ねらいへの到達度は,その生徒の意識の高さによって変動する。尺度として「2」を付けたからといって,その個人の道徳性が低いわけではない。そこではその学びにおける自己の到達点を,高く設定したがゆえの「2」である可能性があり,その尺度の意図を,記述による振り返りについて検証することで,正しい評価の材料として補完できるわけである。 一例を挙げると,「共感・感動をしましたか」の項目で「2」を付けた生徒がいたとしても,それは「自分の中でそう行動することは当たり前と感じたから」なのか,「その行動をとったことで,違う登場人物の誰かはどう受け止めたかがより気になったから」なのか,それとも「全くその行動をとった理由に共感できないから」なのかには大きな違いがあり,そこを踏まえない限り,正しい評価とはいえないのである。 逆もまた然りであり,記述による振り返りで焦点化した生徒について,その生徒の受け止めや満足度が尺度ではどの程度だと判断していたのか,検証することは可能であろう。互いの利点をもち寄って補完することが,それぞれの評価を生かすことに繋がる。よって,個々の生徒が出した道徳的成長の尺度は,あくまでその生徒の時系列に沿っての変化での把握や内容項目によっての比較などには有効であるが,他の生徒との比較には決して使用するべきではない。 今一度,尺度による評価を取り扱う際に必ず注意するべきことを以下の枠内にまとめておく。 しかしそれでもなお,生徒が自分の到達度を自己評価して尺度化することには大きな利点が存在する。尺度化は,生徒の心の響きに「具体性・客観性」をもたせることに非常に有効で,価値の自覚化に大きく貢献すると予想される。 特にこの取組の中で重要なポイントは,生徒が行った尺度による自己評価を,毎回コンピュータで記録し,データとして管理・活用することである。今までも生徒に尺度での振り返りを試みた取組は散見されたものの,それを,一年間を通しての学びとして関連付ける取組はあまり見られなかった。しかしながら継続的な学びの達成度の把握からは,生徒の時系列に沿っての変化や内容項目によっての受け止めの違い,教材自体のもつ力の比較やクラスの傾向など,一覧となった表の中から読み取れるようになり,その効果については副次的なものを含め,非常に高いものがある。 具体的には,授業が終われば,ワークシートを回収し,そこに尺度化して示された各生徒の自己評価を,学年ごとに表計算のファイルに入力していく。教材の情報として教材名の入力はもちろん当然であるが,今後の教材活用の重要な情報となるので,実施日はいつか,内容項目はどの項目か,教材,資料の形態は読み物やビデオ教材などの中のどれであったかなどの情報も記録していく。尺度の入力自体の手間は簡単なもので,名列順に並んでいれば,一クラス5分ほどで入力ができる。 尺度の五項目は五段階で評価されており,それが各生徒の評価した規準となる。それを表計算ソフトに入力すれば,平均値が算出され,クラスごとの各項目の評価点,合計点がわかるようになる。 12ページの図2-4で示したワークシートによる,生徒の振り返りの尺度を継続記録した分析表モデル図2-5を以下に示す(質問項目は簡素化)。 A A B C D 図2-5 尺度分析の継続記録分析表(モデル) 中学校 道徳教育 13 生徒の変化を見取る 教材・授業の成否を検証
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