図2-3 自己評価から生じる好循環とその構造図 教師が質の高い道徳の授業を維持するためには,その道徳の授業のねらいの達成度という具体的な指針が必要である。その判断の軸に生徒の自己評価を据え,更にこれら道徳の授業の評価について蓄積を行うことも重要である。その蓄積が学校としての取組や教師自らのよりよい指導方法への学び,更には年間指導計画の改善などにつなげていくシステムを構築するのである。そこから生まれるプラスのフィードバックがよいスパイラルを発生させるわけである。 このような好循環のスパイラルの末にたどり着くのが「文言による評価」を意識した計画的な生徒理解の深めである。これは今回の学習指導要領一部改正の最大のポイントと考えられる。3ページに示した図1-5「道徳を取り巻く「困り」の停滞の構造」に対して,「生徒による自己評価」を中心に据えることによって改善された構造図を以下の図2-3に示す。 まずはここまで述べてきたように,生徒の道徳の授業に対する自己評価を活用したシステムを実現させる。その上で,毎週の道徳の授業での個々の生徒の受け止めを記録し,振り返りを行う。そして最終的には,学期末や年度末に生徒自身の成長の自覚を汲み取った「文言による評価」を実現させるシステムを構築する。そうすることで,最中学校 道徳教育 11 終的に評価者(教師)も被評価者(生徒)も納得し,今後の学習意欲を向上させる評価が実現できると考える。これはとても重要なポイントで,道徳の評価は,生徒と教師が共に納得し,次の励みになるものであるべきなのである。 また,長期的な視点としては生徒による自己評価をその道徳教材を測る尺度として活用し,道徳の次年度の年間計画の見直しに役立てられる。結果,道徳の授業を単発的な授業ではなく,継続的な授業としてとらえ,道徳性の発達段階に応じた授業形態に教材を練り直すことにも活用できる。 第2節 自己評価活用プログラムの開発 (1)自己評価で用いる二つの手立て 学習指導過程に関する評価の資料となるものは,生徒の学習状況である。したがって,生徒の学習状況の把握が適切に行われることが重要であり,その把握に当たっては様々な手立てが考えられる。だが,見取るべき「道徳的心情」「道徳的判断力」「道徳的実践意欲と態度」が内面的資質である以上,そこに迫るには生徒自身の自己評価を活用することが有効であると考える。 他の様々な教科と違い,特別の教科である道徳は,生徒自身が学習を振り返り,自分の変容を自覚し,自らの道徳性の成長を認めることを目指すという特質をもっている。そのことを踏まえて,ワークシートの記述や自己分析による評価に生徒自身が指導のねらいに即した道徳性の成長を自覚できる仕掛けを行い,それらの学習の過程や成果などの記録の積み上げによるポートフォリオ評価を実施する。 (2)記述と尺度で迫る生徒の自己評価 生徒の成長を見取る形態の一つとして,従来から記述の手立てをとるのは,より細やかな心情,認識の拡大を生徒が表現できるようにというねらいである。生徒が自身の道徳性と向き合って手に入れた学びは多様であり,それを正確に拾い上げるには記述形式が有効であろう。生徒の道徳性は,一人一人,様々に変容し成長していくものであり,またその生育歴や家庭環境など,決して一様ではない。道徳の授業での指導において,教師は生徒個々の成長状況や背景の把握を心掛け,配慮を要する生徒に適切に対応することが求められる。 具体的には,生徒は道徳の授業の中でその取り扱った内容項目について,生徒自身が自らに問い
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