うな指導方法等を工夫することが,人権教育の問題点を解決する一つの鍵だと考える。 (2) 自尊感情の意識調査 [第一次とりまとめ]の中で,児童生徒が人権感覚を身に付けるためには,「学級をはじめ学校生活全体で自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを児童生徒が感じ取ることが肝要である」(22)と明記されている。 筆者は,「自分の大切さを認める」とは,自分のよいところも悪いところも含めて,自らを価値ある人間だと思える自尊感情をもつことであり,「他の人の大切さを認める」とは,自分の価値観や行動規範と違うところがあったとしても,他の人の存在を認識し,それぞれが自分と同じように大切にされるべき存在であると思えるような他者に対する肯定的,受容的意識をもつことであると考える。 人は,自分が一人の人間として大切にされているという実感をもつことができなければ,このような自己や他者に対する意識はもつことができないともいわれている。つまり,人権感覚を高めるための第一歩として,まず,一人一人の児童生徒に高い自尊感情をもてるようにすることが必要なのである。しかし,近年,多くの国際比較調査において日本の子どもたちの自尊感情が他の国の子どもと比べて低いという報告がされている。そして,国内の調査においても,その傾向が表れている。図2-1,図2-2は,平成27年度[全国学力・学習状況調査 報告書]の「児童生徒の意識調査」(23)より,自尊感情に関する項目の一部を筆者がまとめたものである。 図2-1 平成27年度 全国学力・学習状況調査 報告書 「児童生徒の意識調査」の一部(小学校6年生) 図2-2 平成27年度 全国学力・学習状況調査 報告書 「児童生徒の意識調査」の一部(中学校3年生) 平成27年度の調査では,「自分には,よいところがあると思いますか」という質問に,「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」と回答した児童生徒の割合は,小学校6年生で76.3% ,中学校3年生では68.1%という結果であった。平成19年度の調査開始時と比べると若干の増加傾向にあるが,ここ数年は小学校,中学校ともにその割合はほぼ変わっていない。依然として,小学校6年生では約4人に1人が,中学校3年生では約3人に1人が自分にはよいところがあるとは思わないと回答しているのである。 人権教育 7 (3) 人権感覚の育成につながる自尊感情と他児童生徒に「自分の大切さを認めること」ができるような自尊感情を高めるためには,どのような取組が必要なのだろうか。 今,学校現場において,児童生徒の自尊感情を高める取組として,ほめること,成功体験を積ませることに偏った意識を向けてはいないだろうか。そのために,できるだけ失敗体験を積まさないようにはしていないだろうか。これらの教師側の配慮が,その意図とは逆にはたらき,児童生徒に失敗することへの恐怖心をもたせてしまい,一度の失敗体験で自分はもうダメだと意欲を無くしてしまう子どもや,ほめられない自分はダメな人間だと感じてしまう子どももいるかもしれない。 人は成功体験だけで日々の生活を送ることはできない。これは,児童生徒についても同じことがいえる。学年が上がるにつれて全てを成功させる,ある一定のレベルを保ち周りから評価されるということは,どんどん難しくなってくる。それ者に対する意識
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