教育活動全体を通じて,人権教育が推進されている 後には,基本計画に挙げられている「同一性・均一性を重視しがちな性向」や,「人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践する態度が定着していないこと」がその一因として存在していると考えられる。 基本計画が出されて,すでに10年以上が経過している。この間,国際化,情報化,少子高齢化が一層加速し,それに伴い人権問題も複雑化・多様化する傾向にある。しかし,人権問題が生じる要因や問題点は,基本計画に挙げられているものと変わっていない状況である。 こうした状況の中にあって,人権教育及び人権啓発に関する取組の実施主体は,学校,社会教育施設,教育委員会のほか,社会教育関係団体,民間団体,公益法人など,あらゆる場で行われており,その広がりの意義は深いものがある。 しかし,そうした広がりの中でも,やはり,これからの社会を担う子どもたちを育てていく学校の果たすべき役割は,非常に重要であると思われる。それは,小さいときから体験的に「人権とはどういうものなのか」,「それを尊重し合うとはどうすることなのか」,また,「人権は全ての人に存在し,そこに優劣はないこと」などを学ぶことが必要だからである。更に,児童生徒の自尊感情とともに,他者に対する肯定的,受容的意識を育み,高めていくためには,物事を多面的・多角的に見ることのできる力や,合理的に判断する力などを育成することも必要である。そして,これらの力は,学校教育において付けていかなければならないものである。この意味において,学校における人権教育のさらなる充実を図ることが必要であると考える。 第2節 学校における人権教育 (1) 学校における人権教育の問題点 基本計画では,人権問題が生じる要因やその問題点とともに,これまでの学校現場で取り組まれてきた人権教育の問題点についても指摘されている。以下がその内容である。 が,知的理解にとどまり,人権感覚が十分に身に付いていないなど指導方法等の問題,教職員に人権尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていない等の問題 (下線は筆者による)(10) 【人権教育の問題点】 人権教育 4 基本計画が指摘している問題点は二つあり,いずれも教職員に関する内容である。 一つ目は,指導方法についての指摘である。私たち教職員は,理解はしているが,実際の生活の場面において,その理解が必ずしも行動に結び付いてはいないと思われる児童生徒の姿があることを真摯に受け止めなければならない。そして,その姿から,自分たちの指導に何が足りないのかを考え,人権教育の改善を図る努力をしなければならないということである。 二つ目は,教職員自身の人権意識に関する指摘である。教職員が人権について真に理解しているか,教職員自身が高い人権感覚をもって,児童生徒の指導に当たっているかが問われているのではないだろうか。 では,この二つの問題点を解消するためにどのような取組が有効なのであろうか。 (2) 人権教育の指導方法等の在り方について 文部科学省は,人権教育の問題点の解決のために,平成15(2003)年6月に人権教育の指導方法等に関する調査研究会議を設置した。この会議において,人権教育の指導の改善・充実という課題に直接的・具体的に関わるのが,人権教育の内容及び指導方法などの問題だとし,その在り方に焦点を当てた三次にわたる[とりまとめ]」を公表している(以下,[とりまとめ],[第○次とりまとめ]という)。 平成16(2004)年6月に公表された[第一次とりまとめ]では,「人権教育とは何か」ということをわかりやすく示すとともに,学校教育における指導の改善・充実に向けた視点が示された。その中で,自主性の尊重や体験的な活動を取り入れるなどの指導方法の工夫,児童生徒の発達段階や実態に即した内容・方法,効果的な学習教材の選定・開発,教育の中立性の確保などを留意事項として指摘している(11)。 平成18(2006)年1月に公表された[第二次とりまとめ]では,全国から収集された人権教育の実践事例などを参考に,人権教育の指導方法などの工夫・改善方策などについて,主として理論的・実践的な指針が提示されている。その中で,人権教育を通じて育てたい資質・能力について具体的に示された(12)。 平成20(2008)年3月に公表された[第三次とりまとめ]では,学校関係者が,[第二次とりまとめ][とりまとめ]
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