001総教C030705H27最終稿(菊谷)
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前頁,表1-1にみられるように,国連を中心に,人権の保障や差別の撤廃等に関する条約や規約が次々と採択されている。そんな中,平成6(1994)年12月には,人権保障の実現のためには人権教育の充実が不可欠であるという声が高まり,国連総会において,「人権教育のための国連10年」が決議されている。 「人権教育のための国連10年」は,平成7(1995)年から平成16(2004)年までの10年間を“人権教育の充実に向けた取組を世界規模で推進していくこと”を目的として決議されたものである。 これを受けて,日本でも人権教育の積極的推進を図り,国際的視野に立って一人一人の人権が尊重される人権国家の実現を目指して,平成9(1997)年7月に「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画(6)(以下,「国連10年国内行動計画」という)が策定・公表されている。その後,平成12(2000)年12月には,人権及び啓発推進法が制定され,人権教育及び人権啓発に関する法的な整備が進められている。 政府は,人権教育・啓発推進法,第7条の規定に基づき,平成14(2002)年3月に人権教育・啓発に関する基本計画(7)(以下,「基本計画」という)を閣議決定している。この基本計画は,人権教育及び人権啓発に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定されたものである。その中では,我が国における人権教育・人権啓発の現状と,人権問題が生じる要因及び問題点などについても言及されている。また,その後も平成16(2004)年,平成18(2006)年,平成20(2008)年の三度にわたり,人権教育の指導方法の在り方についてのとりまとめが提示されている。 (3) 人権を取り巻く現状と課題 平成14(2002)年3月に出された基本計画は,人権問題が生じる要因について,以下のように挙げている。 【要因】 ・人々の中にみられる同質性・均一性を重視しが ちな性向や,非合理的な因習的意識の存在 ・国際化,情報化,少子高齢化等の社会の急激な どの変化 ・人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践 する態度が定着していない。 (8) 人権教育 3 更に,この要因を踏まえて,人権問題が生じる問題点を以下のように指摘している。 【問題点】 ・自分の権利を主張して他人の権利に配慮しない。 ・自らの権利を十分に理解しておらず,正当な権利を 主張できない。 ・物事を合理的に判断して行動する心構えや習慣が身 についておらず,差別意識や偏見にとらわれた言動 をする。 (9) 基本計画が出されて以降,上掲の要因や問題点を踏まえて,学校はもとより,社会の様々な場で人権教育及び人権啓発に関する取組が推進されるようになった。その結果,人々の間に人権に関する問題点への認識や理解が広がり,これまであまり意識されていなかった分野においても,人権がより強く認識されるようになってきているのではないだろうか。パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどの言葉の誕生は,「非合理的な因習的意識の存在」について,人権の保障という立場から見直された結果であり,人権教育・啓発の一つの成果といえるだろう。 しかし,私たちの身の回りには現在もなお,不当な差別及び人権侵害が存在している。インターネット上では,他人への中傷や侮辱,無責任なうわさが横行し,電子掲示板やホームページへの個人情報流出・差別的情報の掲示や書き込みなどの人権侵害は後を絶たない。更に最近では,“悪ふざけ動画”といわれる反社会的な行為をTwitterやFacebook・動画サイトなどに投稿し,第三者に対して直接的,間接的に危害を加えているという事例も大きな社会問題として取り上げられているところである。 今や私たちの生活に欠かすことのできないインターネットの特性を,逆に悪用して人を傷つける手段にしたり,面白いからといって,結果を想定することなく安易に行動してしまい,結果的に他者の人権を侵害したりするといった行為は,「自分の権利を主張して他人の権利に配慮しない」ことの,最たる事例となっている。 これらは,基本計画が指摘している問題点である「物事を合理的に判断して行動する心構えや習慣が身についておらず,差別や偏見にとらわれた言動をする」という行動が,未だ人々の間に解決されず存在していることの現れでもある。 児童生徒の人権に関わる問題についても,いじめや虐待などが存在している。これらが起こる背

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