業の最後にこそ,その授業での児童の努力や成果,更には成長を,そして時には,次の学習に向けての課題などを学級担任の発言によって,児童自身に実感させることが必要であると考える。学級担任による児童の学習に対する称賛や価値付けが,児童の自信や学びに対する意欲となって,次のステップへとすすむ原動力になると考える。 (2)児童の人権を大切にした学級経営と学級 担任の役割 学級担任の発言と児童の人権感覚の育成との関係を児童の意識調査から考察する。 1年生の学級担任は,学級経営を行う上で,授業の充実を図ること,学習規律の定着を図ること,友だちのことを考えられる児童に育てることを大切にしていた。授業の中では,第3章の図3-3からもわかるように,児童の学習活動や学習態度をほめることが多かった。45分の授業を充実させるために,ほめることにポイントがおかれ,ほめることを通して学習規律を定着させ,自信をつけて意欲的に学習に取り組む児童の育成に重点が置かれていたのだ。そこで,主に児童の自尊感情を見取る「自分について」の意識の変容から考察する。図4-8は,1年意識調査「自分について」の7月と11月の集計結果を比較したものの一部である。 質問1「わたしには,よいところがある」に「あてはまる」「少しあてはまる」と肯定的に回答した児童の割合は,7月が78.2%,11月が86.7%で8.5ポイント増加している。質問6「わたしは,人と違っていても自分が正しいと思うことは言ったりしたりできる」に肯定的に回答した児童の割合は,7月が71.4%,11月が86.7%で15.3ポイント増加している。質問7「わたしは,人からよくほめられる」に肯定的に回答した児童の割合は,7月が78.2%,11月が100.0%で,21.8ポイント増加している。 このような児童の意識の変容は,日々の授業の中での学級担任の発言と,学校での集団生活や共有体験による他者との関わりが,児童の自己理解(%) (n=22) が深まりや,自己肯定感や自己有用感などの自尊感情の育成につながっていると考察する。 3年生の学級では,一人一人の児童の課題を明確にして指導すること,児童の声に耳を傾けること,児童が楽しいと思える学級にすることを意識した学級経営が行われていた。授業の中でも,一人一人の児童の実態を大切した指導に重点が置かれ,日頃から,個に応じたほめ言葉や注意の言葉がかけられていた。そこで,3年生でも,「自分について」の意識の変容から考察する。図4-9は,3年意識調査「自分について」の7月と11月の集計結果を比較したものの一部である。 質問2「わたしには,直したいところがある」に肯定的に回答した児童の割合は,7月が64.6%,11月が77.3%で12.7ポイント増加している。質問7「わたしは,人からよくほめられる」に肯定的に回答した児童の割合は,7月が77.3%,11月が91.0%で,13.7ポイント増加している。質問10「わたしは,今の自分が好きだ」に肯定的に回答した児童の割合は,7月が72.7%,11月が91.0%で18.3ポイント増加している。 第3章の図3-3からわかるように,3年生の授業では,他の調査学級に比べて注意する割合が高かった。しかし,第3章の事例Ⅷで示したように,児童の行為や行動を指摘するだけでなく,何がいけないのかを冷静に伝え,更に,どうすればよいかを具体的に理解させるような注意の仕方をしていた。ほめる割合については,それほど高くなかった。しかし,「人からよくほめられている」という質問に肯定的な回答をした児童の割合は13.7ポイントも増加している。これは,教師の発言は,量ではなく,いかに児童に伝わるかが重要であることを表す一つの例ではないかと考察する。日頃から児童の実態を意識し,児童にきちんと伝える学級担任の発言によって,児童は自分のよい面と直さなくてはならないと思う面の両方を客観的に捉えることができるようになり,その上で,できないことがある自分も好きだと思える自尊感情が育(%) (n=22) 図4-8 1年意識調査「自分について」の集計結果の比較(一部) 図4-9 3年意識調査「自分について」の集計結果の比較(一部) 人権教育 28
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