図4-7 「授業を進める発言」と「児童を育てる発言」の人権教育 27 (%) (5) 人権感覚の育成にマイナスにはたらく学級担任の発言 調査の中で,学級担任の発言が,児童の人権感覚の育成にマイナスに働く可能性もあると思われるものも存在した。それらを分析すると,そのような発言がなされた要因として,以下に示す二つのことが考えられた。 一つ目は,個に焦点を当てた指導に意識が向き過ぎて,全体と個との関わりや他の児童が見えていないと思われるような場面である。例えば,授業中に私語が多い児童や姿勢が崩れるなどの学習態度に課題があると感じた一定の児童に対して,同じような注意を繰り返すことや,児童の発言に対して個別に対応するあまり,授業の流れが滞り,周囲の児童が混乱したり,集中力が途切れてしまったりするなどの状況を作り出してしまう発言である。また,児童の指名に偏りがあるなども,児童の中に,友だちに対する偏ったイメージを刷り込むことにもなりかねないのである。 二つ目は,教師の意図や目標と児童の学習状況や様子にずれが生じたている場合である。多くの 場合は,再度,説明をし直す,指示を出し直すということが行われていたが,その際の学級担任の表情が厳しいものになっていたり,きつい表現を使って注意したりするなどの様子が見られた。 また,学級担任が「こうしたい」という思いが強ければ強いほど,その発言も強くなり,学級に緊張感が走ることがあった。 集団生活を送る学級においては,注意することも,必要な指導の一つであると考える。これまで上げてきた事例の中でも,注意することによって,他者に対する理解を深めたり意識を高めたりすることにつながる発言は多く見られた。しかし,学級担任の発言によって,必要以上の緊張感が生まれると,児童の学習にもマイナスの影響を与えてしまう。具体的には,“自分には関係ない”というように,自分の学習を淡々と進める児童や,自分に対してかけられていないにもかかわらず,こわばった表情で学級担任の様子を見つめる児童などの姿などである。また,このような状況では,児童の発言数も少なく,児童が生き生きと学ぶ姿は見られなかった。 こうした状況が生まれるのは,学校行事の前などであったことから,児童の人権感覚の育成にマイナスに働くと思われる発言と,学級担任の多忙感やそれに伴う余裕のなさとの間に何らかの関係があると推察する。 第2節 学級における人権教育を充実させるために (1)授業観察からみえてきた課題 授業観察の分析を進める中で,課題も見えてきた。ここでは,二つの課題について取り上げる。 一つ目の課題は,「授業をすすめる発言」と「児童を育てる発言」のバランスの問題である。 図4-7は,第3章,図3-3で示した学級担任の発言の割合を「授業をすすめる発言」と「児童を育てる発言」という分類で,発言時間全体に占める割合を算出し直したものである。 第3章で取り上げた児童の人権感覚の育成につながると思われる発言の多くが,「児童を育てる発言」の中に存在した。しかし,図4-7で示したように,どの学級も「授業をすすめる発言」が全発言時間の50%を超えているのに対して,「児童を育てる発言」の割合は,20%未満である。このような状況の中で,さらなる児童の人権感覚の育成を図るにはどうすればよいのだろう。 筆者は,「ほめる」こと,「注意する」ことを増やせばよいという単純な問題ではないと考える。児童の何を,どのように「ほめる」のか,「注意する」のかが重要であり,そのために,前節(3)で述べたように,発言が影響を及ぼす範囲を意識しながら,かけ方やかけるタイミングを工夫して,より効果的に児童に届く発言にするという意識をもつことが大切である。 また,前節(4)で述べたように,「授業をすすめる発言」の中にも,人権の視点を取り入れることは可能である。それゆえに,「児童を育てる発言」と「授業をすすめる発言」の双方からのアプローチによって,授業の中で児童の人権感覚の育成を図ることを目指したい。 二つ目の課題は,本章,図4-1の中に1として示したまとめの場面に,「児童を育てる発言」が少なかったことである。 導入や展開の場面では,児童の学習活動の様子や学習内容に対して多くかけられていたが,授業の最後にかけられることは少なかった。1時間の授発言時間全体に占める割合
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