様子を観察した学級担任が,「交流の仕方がよくなってきています」と価値付けている。更に,「常に発言者に意識を向けて,共有しようとする姿勢がいいです」など,特定のグループの活動の様子を好ましい姿として他のグループに紹介し,モデルを示している。実は,この発言の前に「~くん,自分勝手にしゃべっても届かないよ。」「一方向だけの交流ではダメ。」などの注意がされていた。 注意の発言も含めて,グループ交流を通して,児童の他者に対する意識を高めたいという学級担任の思いが伝わってくる。注意することで課題を与え,その課題が克服できたことを承認・価値付けするという教師の発言が,児童の自尊感情を高めることにつながったのではないだろうか。グループでの学習や交流の中で,互いの意見や考えを傾聴し,共感したり,感想を述べ合ったりできた自分を自覚させることが,児童の自信につながると考える。更に,このような学級担任の発言によって,友だちとの協働的な関係を育むことができ,それが児童の他者に対する意識を高めることにもつながったのではないだろうか。 ここで注目したのは,教師の注意が児童に課題として受け止められたことである。“怒られた”,“否定された”と受け止めると児童の学習意欲は低下し,自尊感情や他者に対する意識の向上は期待できない。しかし,ここでは教師の注意により,児童に新たな課題克服への意欲が生まれていた。学級担任と児童との間に信頼関係が築けており,児童が学級担任の発言の意図を受け止めることができたこと,児童が授業のめあてを理解していたこと,教師の注意が具体的で改善すべき点が児童に理解されたことなどが関係していると考える。 三つ目は,事例Ⅷを取り上げる。これは,3年生の算数の授業の一場面であった。 友だちの発表の途中で否定的な発言をした児童に対して学級担任はその場で指摘し,発表が終わった時点で,再度,声をかけている。この後半の発言があることで,児童の行為や行動を指摘するだけで終わらず,友だちの話を最後まで聞くことの大切さをきちんと理解させることにつながったと推測する。この学級担任の発言は,友だちとのよりよい人間関係づくりにつながるものである。学校生活の中で,他者とのよりよい関係を築くことの大切さや,そのためにはどのようなことに気を付けなければならないかを体験的に学ぶことで「他の人の大切さを意識する」ことができる児童の育成が図られると考える。 人権教育 25 図4-4 学級担任の発言の影響が及ぶ範囲 このように,発言の影響が及ぶ範囲を意識することで,教師の発言は間接的なかけ方もでき,時にはその方が,児童の自尊感情や他者に対する意識の育成に有効に働くということがみえてきた。 次に,言葉のかけ方について述べる。ここでは,間接的なかけ方が有効に働いたと思われる事例Ⅳを取り上げる。事例Ⅳでは,学級担任が児童の学習活動に対する価値付けを,他の児童を通して行っていた。 図4-5 学級集団を通してかけられる言葉 (3) 教師の発言が影響を及ぼす範囲と言葉の 初めに,教師の発言が影響を及ぼす範囲について述べる。教師の発言には,個人を対象にしたものと学級全体を対象にしたものがある。教師は必要に応じてその対象を区別しているが,本調査から,個人を対象とした発言の多くが,他の児童の学習活動や行動に影響を及ぼしていることが明らかになった。第3章で示した事例Ⅰと事例Ⅱはその顕著な例である。 事例Ⅰのように,一人に対する学級担任の承認や価値付けにより,その場にいる他の児童は,それを自分の学習活動に取り入れたり,友だちが称賛されたことを真似して自らも称賛されようとしたりする場面がよく見られた。そして,そのような場面は,学年が小さいほど多く存在した。 同じく1年生の事例Ⅱでは,学習態度を正したい児童がいる場合に,モデルとなる児童をほめることで,できていない児童の姿を正すことができていた。 右図4-4は, 上記の場面 の分析から, 授業中の学 級担任の発 言の影響が 及ぶ範囲と, 児童の友だ ちに対する 意識を図式 化したもの である。 右図4-6は, 学級集団を通 してかけられ た発言の流れ を図式化した ものである。 かけ方,タイミング
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