図4-2 授業の中での「授業をすすめる 発言」と「児童を育てる発言」 人権教育 24 児童の自尊感情や他者に対する意識などの人権感覚を育成するためには,児童が自覚していない自分の良さや成長などに気付かけるような発言であったり,他者に配慮した行動ができているかなどの他者との関わり方を考えさせることができるような発言であったりすることが重要である。つまり,評価の規準の中に,「人権としての教育」であるか,「人権を通しての教育」であるかどうかという視点が盛り込まれることが必要なのである。 本調査の結果から,「自分の大切さとともに,他の人の大切さを認めること」ができる児童の育成につながると思われる学級担任の発言について,その内容やタイミング,かけ方などについて以下に考察していく。 (2) 自尊感情や他者に対する意識を高める「児ほめる,注意する対象や,その内容を分析することで,教師の発言と児童の人権感覚の育成との関わりが明らかになってきた。ここでは第3章で示した事例Ⅲ,事例Ⅴ,事例Ⅷから考察する。 一つ目は,事例Ⅲを取り上げる。図4-3で示した1年生の体育の授業の中で,児童自らが考えて行動する姿に対して,学級担任が「完全にできるようになった」という言葉でその行為を価値付けている。 児童ができる ようになったこ とや上達したこ とを学級担任が 具体的な言葉で 伝えることで, 児童は自らの成 長に気付き,自信をもつ。更に,学級集団全体にかけられこの発言によって,集団の一員としての自覚が芽生えてきた時期の児童にとって,自分にだけでなく,所属する集団に対しても自信がもてたと推測する。このような自信が児童の自尊感情を高めることにつながると考える。また,友だちと協力してできたことをほめられたことで,「大変だったけどいっしょにできてよかった。」「みんなで協力すれば自分たちだけにもできるんだ。」といったように,友だちと協働的に関わることのよさにも気付き,他者に対する意識にも変化をもたらしたのではないかと考察する。 二つ目は,事例Ⅴを取り上げる。これは,6年生の国語の授業の一場面である。グループ交流の図4-3 準備を終えて集合する児童 (1) 「授業をすすめる発言」と「児童を育てる発言」 図4-1に示した授業中の教師による説明や指示,発問は,児童の学習活動に直接関係する発言であり,授業をすすめる上でなくてはならないものである。これらは明確な指導目的のもとにかけられ,1時間の学習活動の流れを生む重要な役割をもっている。一方,ほめるや注意するといった発言は,児童の学習内容や学習活動の様子などを承認したり,称賛したり,修正したりする目的でかけられており,児童の学習活動や学習内容をより充実させる働きをもっている。ほめられた児童や学級集団は,その後の学習に向かう姿勢がより意欲的,主体的になった。一方,注意された児童や学級集団は,その後の学習態度や活動内容が改善された。このことから,説明や指示,発問は“授業をすすめるための発言”であり,ほめる言葉や注意する言葉は児童の意識や態度を“児童を育てるための発言”だと整理できると考えた。 人権教育においても,教師が児童を「育てる」という視点をもつことは重要である。指針の中にも,「『子どもを守る』という視点からの取組と,『子どもを育てる』という視点からの取組が不可欠である」と明記されている。(30) 右図4-2は, 授業の中で 「授業をす すめる発言」 と「児童を 育てる発言」 がどのよう にかけられ ているかを 図式化したものである。 初めに教師の説明や指示,発問があり,それを受けて児童の学習活動が行われる(説明については,児童の学習活動の後にくる場合もある)。ほめるや注意する発言は,児童の学習活動に対してかけられるものであり,そこには,児童の何をどのように見取り,どう評価するかという各担任の評価の規準が存在する。その評価の規準が,できたかできなかったかなどの学習活動の結果を重視したものであると,たとえ学級担任にそのような意図がなかったとしても,結果的に児童に優越感や劣等感をもたせることになりかねない。このような「ほめる」「注意する」では,「児童を育てる発言」とはいえない。ほめることや注意することで童を育てる発言」
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