図2-4 学級における人権教育 筆者は,児童生徒の人権感覚を育成するためには,人権教育の四つの視点の中でも「人権としての教育」と「人権を通しての教育」という二つの視点からの人権教育の推進が,特に深く関わっていると考えている。 「人権としての教育」が,児童生徒に自己実現を可能にする力を身に付けられているかどうかという視点,「人権を通しての教育」が,児童生徒がつながりの中で互いの人権を尊重することの大切さを学ぶことができるような人間関係づくりや互いを大切にしようと思えるような雰囲気などの環境づくりができているかどうかという視点であるととらえると,この二つの視点からの人権教育は,児童生徒本人やその集団,そして,児童生徒の生活の場である学級に直接働きかけるものであるといえる。そのため,この二つの視点からの人権教育を充実させることで,児童生徒は体験的に人権の大切さを感知し,その価値を志向するようになるのではないだろうか。このように,自分が大切にされていることを実感することや,友だちとのよりよい人間関係をどのように築いていくかを学ぶことといった児童生徒の実生活に直結した体験こそが,児童生徒の人権感覚を高めるために必要不可欠なものであると考える。それゆえに,教師が,この二つの視点を視野に入れ,日常の教育活動を充実させることで,現在の人権教育の問題点の一つが克服されるのではないだろうか。そこで,本研究では,人権の四つの視点の中でも,特に「人権としての教育」と「人権を通しての教育」に着目することにした。 (3) 隠れたカリキュラムが及ぼす影響 人権感覚の育成につながる学級担任の教育実践を明らかにする上で,[第二次とりまとめ]で示された「隠れたカリキュラム」の存在を意識しておくことも重要であると考える。 以下が「隠れたカリキュラム」の内容である。 学級における,「一人の大人対多くの子ども」という関係の中で,教師は,児童生徒に対する自らの言動の確認や点検が十分にできてきただろうか。児童生徒の心を傷つけるような発言や行動はなかっただろうか,また,児童生徒が友だちとの関係に優劣を付けてしまうような発言やマイナスのイメージをすりこんでしまうようなことはなかっただろうか。 学級の在り方や雰囲気は,児童生徒の人権感覚の育成に,プラスの影響のみならずマイナスにも影響を及ぼすと考える。そして,それらを学級の在り方や雰囲気をつくり出すのは,教師の人権感覚であり,その人権感覚に基づく言動ではないだろうか。つまり,人格形成過程にある児童生徒の人権感覚の育成にとって,教師の及ぼす影響も非常に大きいと考えられるのである。 【隠れたカリキュラム】 教育する側が意図する,しないに関わらず,学校生活を営む中で,児童生徒が自ら学び取っていくすべての事柄を指すものであり,学校・学級の「隠れたカリキュラム」を構成するのは,それらの場の在り方であり,雰囲気といったものである。 (29) 教師のリーダーシップと学級経営について研究している河村は,著書の中で,日本の学級集団を「教師をリーダーとし,同年齢の児童生徒によって組織された最低1年間,固定された閉鎖的集団」(30)だと定義付けている。そして,この固定された閉鎖的な集団の一員として,児童生徒は毎日学習し,その人格が形成されていくと述べている。特に小学校においては,学級担任制のもと,教育活動の多くを一人の学級担任が中心となって行われている。このように,学級が閉鎖的な空間であるからこそ,「隠れたカリキュラム」の存在が指摘されているのではないだろうか。 人権教育 10
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