98 することである。領域統合型アプローチにおいては,そのパラフレーズ力を鍛えることが必要になってくると考え,その実践を行った。 また,教科書本文の内容理解を通し,「読んだ」内容をもとにそこで得た情報や表現を活用して「話す」ことにつなげるために,教科書の音読練習をシステム化した。 そして,伝え合う段階ではインタラクション(やり取り)を充実させる必要があるため,生徒自身がコミュニケーションを活性化させるスキルを自発的に使用できることを目指した練習を行った。 これらの言語活動を組み入れることによって,複数の領域を統合した授業の展開がより円滑になり,単元の終末で行ったパフォーマンスがさらに充実したものになった。 (3)その成果と課題 研究協力校での実践においては,複数領域を統合した言語活動の充実を図るため,指導者と生徒が学習到達目標を共有した。そして,自己評価や相互評価を経ながら,その目標達成に向けての言語活動のつながりを把握できるような工夫をした。実践後のアンケート結果より,家庭学習の定着に課題のあった実践協力校において,80%の生徒が授業時間以外に単元の終末で行ったパフォーマン課題に向けて音読練習などに主体的に取り組んだことがわかった。また,授業中の様々な言語活動や統合型の言語活動が発表につながったと実感している生徒が95%にのぼり,パフォーマンス課題に向けて見通しをもって活動に取り組めた様子が窺えた。生徒が学習到達目標を意識しながら取り組み,自己評価や相互評価を行うことが,生徒の学習意欲や英語学習の達成感を高める有効な手立てとなったといえよう。 しかし,これは一単元の実践において見受けられた成果である。主体的に英語でのコミュニケーション能力を高めようとする姿を育成するためには,高まった学習意欲を継続させられる仕組みを整えるとともに,そのような学習を長期スパンで展開する必要があると考えた。 そのためには,振り返りを通して生徒自身が課題と解決策を見出して次の学びへとつなげ,その改善を図る過程を何度も積み重ねることが必要だと考える。なぜなら,生徒がよりよい英語でのコミュニケーションを目指して言語活動に主体的に取り組むことは,英語によるコミュニケーションを図る資質・能力を身に付ける上で不可欠であるからである。 中学校 英語科教育 6 その一方で,複数領域統合型の言語活動における評価や生徒の理解については,ある一つの課題が生じる可能性がある。あるまとまった英文を「読んで」,必要な情報についてまとめて「話す」といった課題を設定したとき,沈黙してしまう生徒も数人はいるのではないかということである。その場合,英文の内容理解に問題があったのか,それとも,内容については読み取れたのに話せなかったのか,やり取りすることに難しさを感じているのかといった判断,評価が難しい。高等学校外国語科に向けて作成されたNIER(2012)の評価方法を参考にすると,各領域を有機的に関連させた言語活動については,その最終目標となっている領域の枠の中で評価をすることが可能であることがわかる(15)。そこからは,領域統合型テストにおいては,個々の領域を測定するというよりも,最終的な目標が何であるかを考え,最終的に何ができるか(CAN-DO)という目標を明確にし,その姿を評価するという視点が大切だととらえることができる。これと同時に,生徒がどの時点でつまずいているのかの診断も行い,生徒が自身の課題を把握し克服できるように,加えて指導者は把握した課題をもとに次の指導につなげていけるように,授業を設計していく必要があると考える。 よって,今年度は1年次の研究を基盤にしながら,複数領域を統合した活動を含めたつながりのある言語活動と,生徒自らが課題を明確にし,それを克服しようとするためのさらなる自己評価の充実,そして生徒の学びの過程を見取り,次の学びへつなげる形成的評価の充実に重点をおいて研究を進めていきたい。 (1) 文部科学省『中学校学習指導要領解説 外国語編』開隆堂 平成20年 p.6 (2) 文部科学省『中学校学習指導要領解説 外国語編』開隆堂 平成29年 p.6 (3) 文部科学省『平成29年度 英語力改善のための英語力調査結果(中学3年生)の概要』 http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2018/04/06/1403470_02_1.pdf p.15 2019.3.1 (4) 前掲(3) p.16 (5) 前掲(2) p.53 (6) 文部科学省「教育課程部会 外国語ワーキンググループ『外国語ワーキンググループによる審議の取りまとめ』」 http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/09/12/1377057_1_1.pdf p.20 2019.3.1 (7) 前掲(2) p.10
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