116 第2節 学びの過程の見取りの実践 (1)見通しと振り返りのデザイン化の実践 ①結果と過程の見通し 結果と過程の見通しを生徒がもった上で学習を進められるように,単元の最初にガイダンスを行った。まず,英語学習ポートフォリオの各領域における目標を確認し,時数やスケジュール,生徒に到達してほしいゴール地点のパフォーマンスを指導者が提示した。パフォーマンスのモデルを示した際に,「そんなん,無理無理。」という声も上がったが,実際のパフォーマンスでは,全ての生徒がそのモデルに近いパフォーマンスを披露することができた。 パフォーマンスのモデルを提示した際には,よいモデルとそうでないものの2つを示し,その発表内容の構成や姿勢について分析させ,よりよいイメージをもつことができるよう工夫した。しかし,単元の最初に提示しただけでは,生徒がイメージをつかみ切れていないと判断し,単元の中間地点でもう一度モデルを示した。そうすることで,パフォーマンス課題を目前に控え,自分がどんな発表をするのかのイメージがより明確になると考えた。 また,目標に到達するための言語活動についても説明し,生徒が取り組む言語活動の目的を共有し,目標到達のためにどうつながっているのかを把握した上で言語活動に取り組めるようにした。例えば,各ラウンドでは何ができるようになるために聞いたり読んだりするのか等を伝えていった。 A中学校においては,Unit 4において上記のようなガイダンスを行ったが,今まで取り組んだことのない授業構成,言語活動に慣れるだけで精一杯であった。しかし,Unit 5では単元の授業構成をイメージできたのであろう,前単元よりも意識的に各言語活動に取り組む姿が見られた。 ②結果と過程の振り返り 結果を振り返り,一連の活動を通してゴールに到達できたか否かを把握するために,自己評価と相互評価を行った。第2節では,パフォーマンス課題の実践について述べてきたが,スモールステップを十分に重ねた後で,スピーキングやエッセイライティングなどのパフォーマンス課題を実施してきた。事前の練習をしっかりと行い,聞き手にわかりやすいスピーチにするための方法をアドバイスし合ったり,エッセイライティングの原稿を読み合ったりして,構成や論点などの内容面からと,語彙や表現の適正さなどの言語面からの振り返りを行った。アドバイスし合う中で,「聞き手を巻き込んで説明をしている人がいて,自分も真似しようと頑張った。本番のパフォーマンスでは上手な人に近づけた気がした。」中学校 英語科教育 24 「ジェスチャーなどがあってわかりやすかったとみんなが書いてくれてよかった。声の大きさについて,もう少し大きくした方がいいとアドバイスをもらったので,本番で心掛けた。」などという記述が多く見られ,自分にないものを持ち合わせている級友から学んだり,他の生徒のアドバイスを真摯に受け止めたりしてよりよい発表に向けて努力したことが窺えた。 また,次の学びへつなげることができるように,学習過程を振り返り,ゴール達成を目指してどのように言語活動に取り組んだかの意識化を図った。そして,Unit 5のガイダンスの際に,Unit 4の振り返りを再確認させ,継続的な学習意欲につなげられるようにした。 図3-30はUnit 5の終末の振り返り学習での生徒の記述である。 図3-30 加筆修正後の生徒のワークシート この生徒は,Unit 4終了時の振り返りで,さらにうまく表現するためには「授業中の活動にもっと意識的に取り組んで,家でも練習したい。」という振り返りをしていた生徒である。前単元での自身の課題に向き合い,学習を調整することで次の学びへとつなげることができた達成感を得ていることがわかる。 また,指導者は,各ラウンドにおける生徒の自己評価や帯活動,単元の終末に行う振り返り等から課題を把握し,次の指導につなげた。各言語活動において,モデルとなる生徒のパフォーマンスを他の生徒に示すなど,効果的なフィードバックを行った。それを受けて,上手な生徒の真似をして自身の表現をよりよく変えていった生徒が多く見られた。 (2)英語学習ポートフォリオの実践 ユニットラウンド制の各ラウンドに即し作成したCAN-DOリストを活用したポートフォリオの最上部に「英語を使って何ができるようになりたいか」について生徒が記入した。英語使用者としての自分の将来像について,今の中学生の時点で描ける生徒は少ないのではないかという懸念とは裏腹に,A,B両校のすべての生徒が具体的な目標を記入してくれた。「外国人観光客に京都を案内できるようになりたい。」が一番多く,「自分の好きな洋楽の意味を理解したい。」「将来海外に留学したい。」なども多数見られた。また,「自分や日本について伝えたい。」「英語で書かれた文献(AIやiPS細胞等)を読めるようになりたい。」など,ツールとしての英語を使って自分の関心のある事柄を成し遂げたいという頼もしい目標を書いている生徒もいた。
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