表2-1 見通しと振り返りのデザイン化 104 (1)見通しと振り返りのデザイン化 英語学習において,コミュニケーション能力は繰り返し学習をすることで獲得した知識を活用し,実際のコミュニケーションの場で運用できる技能を習得するための練習を継続的に行った上で成り立つため,即時に際立った進歩や成果が表れにくい。つまり,単語を覚えたり,文構造に慣れ親しんだりしても,コミュニケーション能力が劇的に伸びることは難しいのである。このため,学習目標が具体的に提示され,定期的に進歩が目に見えるような活動や振り返りがなくては,生徒の学習意欲の高まりは継続しないと考える。 学習意欲を高めるために,授業においては体験的な活動としてゲームを導入したり,生徒の興味を引くような面白い事例を提供したりと,様々な手立てが工夫されている。それらは英語学習にとって必要なことではあるものの,そこで高まった学習意欲が持続するものであるかどうかは疑わしい。また,小学校から中学校へと学習段階が進むにつれて,授業におけるコミュニケーション活動に積極的に取り組もうとする動機付けは,単なる興味・関心に訴えるだけでは難しくなると考える。一時的な学習意欲ではなく,持続する意欲へと発展させていくことが,英語を使ってどんなことができるようになりたいかを見通し,学習を長期に渡り支えることにつながるのではなかろうか。つまり,生徒の学習意欲を高め,生徒が主体的に学びへ向かうためには,学習の見通しを立てたり,学習したことを振り返ったりする活動を適切に位置付けることが必要である。 これまでも,様々な場面で見通し・振り返り学習は行われてきた。しかし,今回の指導要領改訂では,そのことをより意識的にまた計画的に実施していくことが求められている。とすれば,私たち指導者は,一から始めるのではなく,これまでどのような見通し・振り返り学習活動を行ってきたか,そしてそれは適切であったかどうかを分析し,検討する必要がある。 授業デザインの中には,必ず指導者のねらいが明確に設定されている。指導案の段階で計画的に設定された目標やねらいがあるからこそ,そのねらいの実現に向けた具体的な手立てを考えることができる。その授業の核となる発問や教材の選択,課題構成などの授業デザインの要素は,指導者の設定したねらいに基づいて選択されている。 中学校 英語科教育 12 では,同様に見通し・振り返り学習には指導者のねらいが反映されているだろうか。めあてに対するまとめや感想レベルの浅い振り返りを積み重ねていくだけでは,めあての提示や振り返り学習そのものが形骸化してしまう可能性もある。また,振り返り学習は,どちらかといえばその内容は結果としての知識・技能が中心で,学びの過程中心ではない場合も多く見受けられる。横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校では,見通しと振り返り学習について,結果と学習過程それぞれにおける見通しと振り返りが必要であるとし,それらを位置付けた実践を行っている(26)。その実践に見られるように,単元の到達目標を見据え,そこに到達するまでの学習過程に見通しをもって学習を進めた結果,到達目標に達することができたかや,その過程がどうであったかを振り返ることが大事であると考える。 そこで,どのような見通し・振り返りが英語科の本質を踏まえたものかを考え,その見通し・振り返り学習をデザイン化していくこととする。 単元計画において計画的に見通し・振り返り活動を組み込むために,①結果と過程の見通し,②結果と過程の振り返りの2段階に分け,それぞれの場面に応じた適切な活動を行う。 表2-1はそれを整理したものである。
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