平成32年度の新学習指導要領の全面実施に向け,平成29年3月31日学校教育法施行規則を改正するとともに,文部科学省は小学校学習指導要領を公示した。これに至る審議の過程の中で,これから変化の激しい社会で生きていく子どもたちに求められる在り方が以下のように示されている。 ・社会的・職業的に自立した人間として、郷土や我が 国が育んできた伝統や文化に立脚した広い視野と深 第1章 科学的な思考力・判断力・表現力 第1節 いま,求められる力 元号が平成になり30年が経った。近年,スマートホンや自動運転車など様々な科学技術の革新により, 30年前には多くの人にとって想像できないような物が,社会に現れるようになった。そして,今や空を飛ぶ自動車や宇宙旅行といったことも実現しようとしている。このように,科学技術は進化を続け,私たちの生活を便利で豊かにし,これからもより一層,人間社会に無くてはならない存在になっていくだろう。 一方,これからの世の中は,地震や洪水,台風などによる大規模災害や地球温暖化,絶滅が危惧されている動物の存在など,個人では解決しにくい困難な問題にも直面している。 このような時代を生きる子どもたちには,人間社会の発展・維持はもちろんだが,地球の環境にも配慮していく力が必要になるだろう。そのため,科学技術を向上させる力と多様化する困難な問題に対応する力を身につけていくことが求められる。そこで,科学に関わる知識や技能を学ぶことが必要になるが,そのような知識や技能を学んでいく上で,問題発見・解決能力や思考力・判断力,情報活用能力,言語能力,他者と協働する力やコミュニケーション能力等といった,いわゆる学習の基盤となる力の育成も不可欠である。例えば,何らかの問題に出合った際,解決していくためには,それに関わる情報収集が必要となる。そのときには,情報を集める力や集めた情報が真か偽かを確かめる力等の情報活用能力は欠かせない。さらに,自ら考えた解決法が適切かどうか判断していく上で,他者と議論する言語能力やコミュニケーション能力等が必要となってくる。また,一人で解決できない場合は,他者と協働していくことも必要となってくるだろう。 これらの学習の基盤となる力の育成が求められる中,科学技術の維持・発展を目指す理科教育はどのような状況にあるのだろうか。理科教育においては,1990年代の「理科離れ」という言葉が世間を賑わし,さらには,2003年のPISAショックを受けて理数教育の充実を一層推進してきた。その結果,日本の小中学生は現象を科学的に説明したり,科学的探求を評価して計画したりする等の力を示す「科学リテラシー」は,調査国の中でも国際的にも高い成績となった。一方で,科学に対する意識調査の中に,「自分の将来に理科の学習が役立つと感じている」や「科学の話題について学(1)国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調(PISA2015)のポイント」 p.4 http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/01_point.pdf 2019.3.1 んでいるときは楽しい」等の設問に対しては,OECD平均をすべての観点において下回っている。(1)このような結果の背景には,記憶としての知識の獲得に重きをおいた学習指導が依然として行われている現状が影響しているのではないかと考える。「理科は覚えるもの」といった部分にのみ焦点が当てられ,問題を発見することや科学的なきまりや性質等を発見すること,身近にある自然の事物・現象とつなげるといった理科を学ぶ楽しさや有用性を感じないまま学習が進められてきてしまったことが要因の1つとして考えられるのではないだろうか。 そこで,これからの社会を担う子どもたちにとって必要不可欠となる科学的な思考力・判断力・表現力等の育成に向けて,小学校理科教育の在り方に着目した。具体的には, ・子どもが自然の事物・現象から不思議や疑問を見付け,それらを主体的に解決するための問いを設定するための指導者の働きかけ ・問いを解決していく場面において,根拠に基づいて考え表現する学習の在り方 ・学んだことを適用させる場面の設定 に焦点を当て研究を進めることで,理科教育を起点とした科学的な思考力・判断力・表現力等が培われると考える。 い知識を持ち、理想を実現しようとする高い志や意欲を持って、個性や能力を生かしながら、社会の激しい変化の中でも何が重要かを主体的に判断できる人間であること。 ・他者に対して自分の考え等を根拠とともに明確に 小学校 理科教育 1 147 はじめに 等の育成に向けて
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