「1番重要なのは不思議だなという心を大切にすること。教科書に書いてあることを信じない。常に疑いをもって本当はどうなんだろうという心を大切にする。」 172 図4-3の5年生の結果を見ると,実践前は事実や証拠に基づいて理由を加えて表現ができた子どもが15%であったが,実践後には31%と,16ポイント上昇している。特に顕著になったものが,事実に基づいた表現をする子どもである。実践前と比べると32ポイント上昇する結果となった。詳しく分析すると,実践前には「その他」に該当する子どもの内,「完答」となった子どもが6人(学級全体の約19%),「事実や証拠に基づいて表現」できるようになった子どもが8人(学級全体の約26%)となった。また,「無解答」であった子どもは0%となった。 以上の各実践校の実践前後の比較から,本研究の方策を講じた結果,科学的な根拠となる事実や証拠に基づいて論理的に思考・表現する力が身に付いてきたと考える。また,本研究での方策は「何となくそう思う」といった子どもや「どのように表現したらよいか分からない」といった科学的に思考・判断し,表現することを苦手とする子どもにとって有効に働いた。そのため,事実や証拠,理由,主張を明確に表現させる授業を行っていくことは,科学的な思考力・判断力・表現力等の育成に有効であることが明らかとなった。 第2節 研究成果の汎用に向けて 本研究が目指す科学的な思考力・判断力・表現力等の育成に向けて,理科の学習を通して実践してきた。ワークシートの改良や指導者の働きかけを工夫することで,根拠を明確にしながら,論理的に表現する力のさらなる育成が期待できる。 また,3章(4)の実践にあった「受粉させたものは必ず結実するわけではない。」といった考えは,中学校の理科の種の保存や生物の分類等につながる視点である。「命をつなぐ仕組みなのに,どうして受粉しても必ず結実しないのかな。」と問いかけ中学へのつながりを意識した指導をしていくことで,子どもの興味・関心を喚起し,思考を連続させることができると考える。科学的な思考力・判断力・表現力等の育成に向けて,義務教育9年間の系統性を踏まえて指導していくことは重要であると考える。 そして,論述確認テストについては,実践する時期を考え作成,活用していくことで,市販のテストと合わせて取り組むことでさらに有効なものになっていくと考える。また,問題形式について小学校 理科教育 26 も子どもの実態に合わせ,主張を選択式ではなく記述式にするなどする工夫もできる。子どもの資質・能力を定期的に見取り,自身の今後の指導改善に活かしてほしいと考える。 一方で,科学的な思考力・判断力・表現力等を育成していく上で,基盤となる論理的な思考力の育成は理科に限った事でもないだろう。例えば,国語科において文章の記述を根拠にしながら筆者の意見を議論すること,社会科において資料の情報を根拠にしながら社会的事象を考えていくこと等である。このように各教科等においても育成をしていくことができると考えられる。そのため,各教科等においても意識して育成していくことで相乗効果も生まれると考える。科学的な思考力・判断力・表現力等の育成を目指す上で,教科等横断的な視点も踏まえてより効果的に育成できる方策を考えていきたい。 この言葉は,2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞した本荘佑教授の言葉である。 本研究で,科学的な思考力・判断力・表現力等の育成に向け,指導者の問いかけや授業構築,指導効果の見取りなどについて考え,実践を進めるごとに,教科書通りの実験結果が得られない体験をした。そのとき,「これはどうしてかな?」「なぜ,違う結果になったのだろう?」と考えるようになった。そして,1つの疑問に対し納得する段階に到達すると新たに「これをしたらどうなるかな?」「この場合は?」と考えることが増えた。こういった体験と考えの構築により科学は成り立っているのだろう。そして,自分なりに考えを構築していくことで,身の周りにある自然の事物・現象に対して新しい見方ができるようになり,おもしろさを感じるようになった。このような,考えるおもしろさというものを多くの子どもたちにも実感してほしいと思う。そして,本研究がそのための手助けの1つになれば幸いである。 最後に,本研究の趣旨を理解して協力してくださった京都市立錦林小学校と京都市立洛央小学校の校長先生をはじめ,研究協力員や学年の先生方,教職員の皆様,京都市立動物園の職員の皆様に心より感謝申し上げる。 おわりに
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