001総教C030705H30西村最終稿
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小学校 理科教育 23 そして,このように科学的な根拠となる事実や証拠に基づいて思考・判断し,表現させることは理科の資質・能力の育成に必要不可欠である。例えば,根拠に必要な事実や証拠を判断するときには,事象の変化,事象の共通点や相違点に気付かなければできない。そのため,事実や証拠をとらえる段階では比較する力の育成に迫れたと考えられる。これは,次期学習指導要領にも示されている第3学年の目標となる資質・能力である。さらに,根拠を明確にし,自分の考えを主張する際,理由付けする思考過程では,生活場面やこれまでに学んできたことをつなげるといった,関係付ける力の育成に迫れたと考えられる。このことは第4学年の資質・能力である。また,一人一人が科学的な根拠に基づいて表現し合い,議論していく中で第5学年や第6学年の資質・能力の育成へと関連していく。つまり,科学的な根拠に基づいて表現する学習を行うことは,次期学習指導要領の目標と合致し,科学的な思考力・判断力・表現力等の育成に有効であったと考える。 また,事実や証拠と主張をつなぐ理由付けを表出させることは,素朴概念や理科の見方を表出させる効果もあった。例えば,第4学年の「ものの温度と体積」の学習の問題意識を高める学習において,フラスコ栓を飛ばす方法を話し合う際に,子どもから「温めると水からモヤモヤが出るから。」や「水の中からあわがでてくるから。」といった,水の状態変化についての素朴概念に関わる発言があった。この単元で活かされることは無かったが,その後の「すがたを変える水」の単元で,「泡が出てくるのは,どんな時かな?」や「泡って何かな?」と話をつなげていくことができるだろう。こういった素朴概念を導出させ,子どもの実態をとらえ指導をしていけることは,子どもの科学的な思考力・判断力・表現力等を育成していく上で効果的であると考える。 <課題について> 学習問題の設定の難しさである。事実や証拠に基づいて理由を加えて主張する学習を成立させる際,学習問題によっては表現させる時,事実や証拠,理由,主張の棲み分けが難しい場面もあった。例えば,水の温度と体積の関係を調べる学習の際,子どもの意見を尊重し学習問題を「水は温めると体積はどうなるだろうか」とした。試験管に水を入れて温めたとき「温めると試験管の中の水面が上がった」という結果が示された。そして,結果169 えば,先述した2章第3節(1)で示した気体の溶けた水溶液について学ぶ際などである。このように問題意識を醸成させる問いかけを指導者は年間の単元配列を見通した指導計画や,子どもの実態を把握した上で効果的な問いかけを模索していくことが大切であることが明らかとなった。 <課題について> 問題意識を醸成することのできる有効な問いかけであっても,子どもたちが思考を働かせていないような場面も見受けられた。この要因には問いかけするタイミングや指導者の表情,問いかけする時の声の抑揚など様々な要素が複合しているのではないかと考える。子どもに思考させていくには,授業の中で,子どもの発言を聞いた時,数秒の間を空けて「本当かな?」や指導者が腕を組み,頭を悩ませながら考える様子を見せる等,役者のようになることで,子どもがゆさぶられる状況となる雰囲気作りも大切であると考えた。問いかけを練るだけでなく,問いかけ方も考えていくことも大切になってくる。 (2)科学的な論述の向上を目指してから <成果について> 授業の中で,授業中に,子どもが「根拠は何だっけ」や「理由は難しいな」というつぶやきがあった。このつぶやきは,自分の考えを相手に伝える時,事実や証拠などの根拠に基づき,それらの解釈を踏まえ理由付けして表現していこうとする意識の表れであると考える。このような発言が見られたのは,事実や証拠と理由,主張の関係を意識した学習の展開やワークシート等の手立てを講じた成果であると考える。 そして,子どもが事実や証拠に基づいて表現するためのポイントとして明らかになったのが,事実や証拠をとらえるため,その共有を図る学習活動が必要ということである。これにより,子どもは事実や証拠を明確にしながら主張する姿が見られた。例えば第3章第2節(2)にあるように,予想図を比較させ,違いをとらえることで,その違いを事実や証拠として正しいと思う図を表現している様子や3章第2節(3)にある上流と下流の石を比較し,違いを事実や証拠として,下流の石を主張するといった姿である。この学習活動を経ることで,全体で共有した複数の事実の中から,子どもは自分の主張に必要な事実や証拠を選択することができたと考える。

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